研究課題/領域番号 |
25381263
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
白松 賢 愛媛大学, 教育学部, 教授 (10299331)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 学級活動 / クラスルームヒストリー / 質的調査 / ナラティブ / 特別活動 |
研究概要 |
本年度は下記3つのサブテーマを実施した。 (1)クラスルームヒストリー法のリサーチメソッドの開発・改善を遂行した。この研究課題を遂行するため、構築主義的アプローチによる質的調査の手法(カテゴリー分析のエスノフラフィー)を援用した<学級づくり>研究の理論枠組みに加え、ライフヒストリー研究の手法を組み込み、クラスルームヒストリー法のリサーチメソッドを開発・改善した。(2)当該年度では、小学校における中学年1クラス高学年1クラスの質的調査を実施し、ドキュメント資料化(前半分)を行った。これと同時に、既存調査3クラスのデータ整理・入力(トランスクリプト)を実施し、この資料を対象として(1)で開発したクラスルームヒストリー法による分析を行い、その成果を日本特別活動学会第22回大会で報告を行った。第一に、学級を変革する主体として教師=子どもを捉え、調査と実践を両立する手法としてクラスルームヒストリー法の学校臨床学的調査法としての可能性を明らかにした。第二に、社会学の理論を援用して学級活動の教育理論を構成し、特別活動における偶発的領域(児童による文化創造と問題解決のプロセス)を解釈=記述する意義と理論的含意を明らかにした。従来の特別活動では、偶発的領域と計画的領域・必然的領域が未整理のため、実践プログラム化の際には「教師の勘どころ」(職人芸)として語られやすかった。そこで本研究では、その3領域を整理することにより、実践知の記述と汎化可能性を企図した分析枠組みを構想した。 (3)デジタルデバイスを用いた児童相互の記録を基に、学級に設置された電子情報ボード等を活用して、学級生活の変容をヴィジュアライズして問題解決や文化創造に寄与する実践(ライフヒストリー法)を2クラスで実施した。この実践もデジタル記録し、トランスクリプトを実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
質的調査及び実践=調査手法としてのライフヒストリー法の開発は順調に進んでおり、特に今年度の調査により、既存の調査で収集していた学級と同様の問題状況を抱えた異なる小学校中学年の調査が実施でき、学級づくりについて同学年2学級を対象とした比較分析の可能性を新たに広げることができた。またドキュメント資料のトランスクリプトにおいても質的資料化と分析は順調に進んでおり、計画通りに進展している。 成果の報告についてはまず国内学会で成果の中間報告を行った。加えて、年度当初予定していた通り、クラスルームヒストリー研究の理論的可能性を海外の大学におけるワークショップで報告し、アメリカにおいて実施されたCITE2014に参加し教育工学や学級経営に関する欧米の研究の情報収集や資料収集を行った。この結果、日本のカリキュラムにおける特別活動の役割と意義は、時数の圧迫により大きな問題を有している現状であるが、学級経営におけるナラティブ関連の研究動向や社会学理論の適用(応用・臨床社会学的展開)に関する研究動向の中で、極めて重要であることを明らかにした。また海外の学級経営関連の研究者との交流において、Special Activities(TOKKATSUカリキュラム)の持つ教育的特色に関する海外発信力は極めて高い可能性が明らかになった。特に平成25年度の研究遂行から、TOKKATSUカリキュラムの持つ「ナラティブコミュニティ」による自治の成果やカリキュラムプランナーとしての児童生徒の役割など、極めて重要な概念や理論枠組を構想するに至った。これらの取り組みにより、研究成果の独創性と国際性を高める可能性を広げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
調査及び分析、研究手法の開発は順調に進んでおり、海外のナラティブ研究及び学級経営関連の研究資料を継続して収集して理論化を充実させながら、サブテーマの(1)クラスルームヒストリー法というリサーチメソッドのさらなる改善、(2)クラスルームヒストリー法による学級づくりの解釈=記述、(3)デジタルデバイスを活用したクラスルームヒストリー法の実践への適用を実施する。 平成26 年度の研究計画では主として申請段階の研究行程表に従い、まず新たに中・高学年5クラスのフィールドワークを行い、データ整理・入力(トランスクリプト)して、計10クラス分のクラスルームヒストリーのドキュメント資料の基礎を作成する。また、既存調査の映像・音声資料をトランスクリプトしたものを基盤として、クラスルームアイデンティティの構成過程と研究手法(方法論)を明確化する。次に、平成26年度のフィールドワークで生成されるクラスの映像・音声資料をトランスクリプトし、生成したドキュメント資料をもとに、「話合い活動」のカテゴリー分析を行う。最後に、研究協力者のクラス(2クラス)にて、児童の撮影した映像や記述した資料を元にクラスルームヒストリー法を実践的に応用し、この実践手法の成果を明らかにする。平成27年度はこれらのドキュメント基礎資料のドキュメント資料化を完全に実施し、分析結果及び成果について、継続して国内及び国外の学会を中心に成果の報告を行い、日本の特別活動カリキュラムの独自性及び特色とともに、教育実践と研究方法を同時に達成する学校臨床学的研究手法の開発を促進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
ドキュメント資料のトランスクリプト謝金も効率的な実施により削減することができた。また当初予定していた海外のワークショップでの報告のための英文校正謝金も自らですべてを行ったことにより、その費用を縮減することができた。 平成26年度に、国際学会での成果報告・情報収集の充実のための費用にあてる。とりわけ、国際学会において、学級づくり及び教育工学に関する情報収集や成果報告(この報告に関わる校正等の費用)を充実させ、成果を国際的に公表する。
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