研究課題/領域番号 |
25381264
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
梅田 素博 熊本大学, 教育学部, 教授 (40213491)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 総合的な学習の時間 / 表現教育 / 美術教育 / 色彩教育 |
研究実績の概要 |
総合的な学習の時間における表現教育として、芸術教科である美術表現のなかで重要な造形言語である「色彩」に関して、昨年度に引き続き教材開発およびカリキュラム研究を深めた。 色彩構成において重視される内容は配色であり、美的表現・機能的表現などの表現が目的とされる。この配色の表現を通じて色彩についての学習が行われるのであるが、PCCSを用いた色彩構成の有効性として次のことが考えられた。先ず、芸術やデザインの表現では、独自の色彩感覚による主観的で個性的な配色の型をもつことも大切である。しかし総合的学習における表現教育のような幅広い表現を必要とする段階では、好みとする特定の色ばかりを使った配色や、特定の色関係ばかりに偏るのではなく、いろいろな配色を習得する必要がある。特にPCCSは配色調和を目的として編纂されており、色の関係を知り広い色域をベースに、偏りのない幅広い配色演習が可能であり色彩表現の幅を広げることができた。また、色の3属性で色を捉えると3つの要素(3次元空間)が必要であるが、色相とトーンなら2つの要素(平面上)であり、要素が少なく組み合わせを考える上で簡易であった。さらに、それぞれのトーンは言葉による固有のイメージをもっており、それを端緒として色彩計画を行うことができた。評価においても、良し悪しという感覚的なものだけでなく、客観的な理由付け(例えば、その色彩を選択決定した根拠等)が必要であり、色相・トーンの系統性や言葉によるトーンのイメージによって、その説明も可能となった。 本年度においては、これらの学術調査および研究資料の収集、それらから獲得した知見および研究成果に基づき、各種の全国公募展、国際作品展、学会などにて教材開発およびカリキュラム研究としての作品発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PCCSを活用することによって、トーンという一つの要素の類似性や対照性を考えるだけで、明度と彩度の2つの要素の類似や対照を考えることができた。また、調和とは変化と統一のバランスであるといわれるが、これを色彩表現の調和方法で見ると、色相が同一・類似の時は変化を与えるためトーンを対照にすることとなった。一方、色相を対照にした場合は、統一のためトーンを同一・類似にすることになった。 PCCSは配色調和の表現教育に有効であり、具体的な色彩構成の方法を研究することができた。それぞれの課題は、配色においていろいろな調和を得るための色の組み合わせ方法であり、色相環上での色相の位置関係、あるいはトーンなどにおける明度や彩度の相互関係を規則化し、色彩表現を基本的にまた組織的に捉える方法群として組み立てることができた。また形は色彩表現を効率的に行うために、平面表現の基本である「分割と配置」の観点から、それぞれ設定することとした。 以上の研究成果として、総合的学習の時間における表現教育のカリキュラム研究の基盤となる色彩に関する具体的な教材を作品として発表することができた。 これらの結果、本研究課題である「総合的な学習の時間のための表現教育のカリキュラム開発研究」に関して、おおむね順調に進展しているということができる。
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今後の研究の推進方策 |
いろいろな条件設定による色彩表現を行う際、形態を自由に任意にして配色を行うと、その表現の造形性が色彩と形態のどちらに重点を置いているのか明確でない場合がある。あまり適切でない色彩が選択されていても、形態の構成によって良い表現になることもあるし、逆に適切な色彩を選択していても形態がその調和感を壊してしまう場合がある。つまり形態を自由に任意にすると、形態表現への発想の比重が大きすぎたり、また純粋に色彩への意識が志向しなかったりして、美術表現全体の意味はあっても色彩表現演習の意味や意義は弱くなってくる。一方、形態を限定しすぎると、色彩と形態とが結びついてできる微妙な造形作用が発揮され難いこともある。基にする限定された形(例えば、グリッドによる形=色面の面積比計算は容易であるが)が適切でないと、類似したフォルムばかりできたり、学習者が飽きやすかったりする場合もあり得る。また色彩においても、配色調和における変化と統一は基本的な考え方であるが、この方法に適用されないものもある。例えば、色相やトーンを同一あるいは類似にした「フォ・カマイユ」などがあり、基本的な色彩調和に関する方法以外の配色が調和しないということではない。また色の調和感は、配色の形や面積・配置、素材の質感によって左右されると同時に、個人の好き嫌いや感情、あるいは時代や環境によって、さらに解釈の仕方において多様に変化するものでもある。このように表現教育の色彩に関して、内容や方法を充実させるために多様な視点から研究を実施することも必要である。 以上の研究をふまえて、今後においても学術調査および研究資料の収集を行い、そこから得た知見から総合的な学習の時間における表現教育の教材開発およびカリキュラム研究を推進し、これまでと同様に各種の全国公募展、国際作品展、学会等にて研究成果の発表を行うものである。
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