本研究の目的は、①人権教育の観点から、わが国における市民性教育の実践の展開を把握し、人権教育に基盤を置いた市民性教育のモデルを構築することである。また、その過程において、②そのカリキュラムや教育方法をデータベース化し公開することで、小中学校教員等の教育実践者の授業づくりや学校づくりを促進する資料と視座を提供する。そして、③人権教育に根差した市民性教育の評価の枠組みを構築する。 今年度は、研究のまとめとして、継続的に行ってきた小中学校の教員との授業実践とその評価をもとに、人権教育に基盤を置いた市民性教育のモデル化を行った。また資料として市民性教育実践のデータ作成した。さらに、大阪府人権教育研究協議会の研修会や複数の市教育委員会、学校での講演会や研修会において、人権教育に基盤を置いた市民性教育のモデルを紹介した。 人権教育に基盤を置いた市民性教育は、社会で生きる人々の多様な「思い」から出発し、社会をよりよくしていく過程に参加する市民を育成することをめざす。それは、自己を認め、お互いを認め、ものごとを肯定的にみる「あたためあう関係」を前提にして、社会をよりよく変えていく過程に参加する市民の育成である。「よりよい」とは、より多くの人が、すなわち社会的マイノリティの人々が多様な生き方を認められる社会のことである。そのためには、社会的マイノリティの人々と出会い、その思いを受け取り、それに応答することが求められる。また、厳しい現実社会を生き抜くための基礎的な力を育むことも同様に大切である。市民性教育には、知的な側面が欠かせないが、それ以前に人々の聞き取りにくい「声」に耳を傾け、応答することが欠かせないことを明らかにした。
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