研究課題/領域番号 |
25381293
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
米田 宏樹 筑波大学, 人間系, 准教授 (50292462)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | インクルージョン / 知的・発達・重複障害教育カリキュラム |
研究実績の概要 |
日本における知的障害教育理念と方法の形成経過について、戦後のオピニオンリーダーの一人である三木安正の論考を整理・考察した。三木は、学級を集団生活について学ぶための小社会だと位置づけ、通常学校内の「特殊学級」が、「精神薄弱」者にとって、安定感を享受でき、生活の基盤となる場であると同時に、障害のない児童生徒の「精神薄弱」に対する理解・啓発を高める共生教育の役割を有していると考えていた。三木は、「生活目標を持った生活」ができるようになるための教育によって、知的障害児の可能性も広がっていくと主張した。三木は、生活教育の理念と教育内容を明確化し、指導形態としての生活単元学習のあるべき姿を論じることで、生活教育と教科教育の二元論ではなく、「精神薄弱者のための教育」として、彼らにわかる教育のあり方を一元的に考えていた。その一方で、三木は、将来、「精神薄弱」に対する理解が進み、通常学校においてあらゆる個人差をもった児童を同時に教育することが出来る仕組みが整えば、「インテグレーション」(インクルージョン)が実現すると考えていた。このほか、日本の知的障害教育カリキュラムについて、遊びの指導を題材に、若干の検討を加えた。 米・英については、これまでの検討結果を整理し、通常教育カリキュラムの知的・発達障害児への適用経過は、彼らが一定の水準以上の学習が困難であるという点で、共通内容の学習が卒業後の生活を支える知識・技能の習得を保障し、学習評価結果が社会参加資格を確実に付与することになるとは限らないことが示唆された。 次年度は、これまでの本研究の成果と今次の学習指導要領の改訂を踏まえて、1.学習水準の向上を各個人内の成長として評価し、2.身につけた力を活用し社会参加していくことを各個人の環境や周囲の人とのかかわりの広がりや深まりとして評価し、次の学習につなげていくカリキュラムの在り方を考察したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日・米・英のインクルーシブ教育カリキュラムに向けた議論や実践の展開について、情報を収集し、ほぼ検討作業を終えている。日本においては、学習指導要領の改訂作業が行われ、新学習指導要領案が出されていることから、中央教育審議会の審議経過や学習指導要領の改定内容について新たに情報を収集し、これまでの本研究の成果と合わせて考察することで、次年度には、知的・発達障害者のソーシャルインクルージョンを実現するカリキュラムの在り方について、まとめと総括を行うことができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年中央教育審議会の答申を受けて、現在教育課程の改善(学習指導要領の改訂)が進められており、3月に特別支援学校学習指導要領案が提示された。特別支援学校学習指導要領のうち知的障害教育教科の見直しも行われているため、日本の学習指導要領の改訂の議論及び改訂結果を踏まえた日米英の比較検討を実施し、日本型インクルーシブ教育カリキュラムモデルの実現状況や今後の課題を考察したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度12月の中央教育審議会答申を受けて、特別支援学校の教育課程の改善が進められることとなった。本申請課題と密接に関連する事柄として、知的障害教育教科の内容の見直しと通常教科との関連性や連続性の示し方が重要課題の一つとなったことを受けて、本申請課題について研究計画の変更と研究期間の延長の必要性が生じた。新学習指導要領の改訂の経緯と改善状況を追加検討し、これまでの検討結果と比較対照し、さらに必要な情報を補足収集・分析することでインクルーシブ教育カリキュラムの在り方について総合考察を行うため、28年度予算の効率化を図り、一部を次年度に使用できるように確保した。
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次年度使用額の使用計画 |
英・米のインクルーシブ教育カリキュラムに関する追加資料の収集、日本の学習指導要領改訂作業に関連した情報の収集のための旅費・物品購入費としての使用、ならびに、研究成果のまとめ・公表のための学会発表・論文投稿費用としての使用を計画している。
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