本研究課題の3年目(最終年度)にあたる本年度は、1年目の文献及び予備調査と、2年目の特別支援学校高等部における観察調査研究の成果に基づき、次のように取り組んだ。2年目の研究成果として、知的障害のある生徒の協働関係の形成には、仲間意識を促すことが重要であることが明らかにされた。そこで、本年度の研究は、特別支援学校高等部における作業学習において、担当教員と連携し、仲間関係を促すことを目標とした教育実践の効果の検証を目的とした。対象は、特別支援学校高等部の作業学習グループであり、高等部の1年から3年生までの6名で構成されていた。彼らは、それまでの作業学習において、単独で作業を遂行しており、初めてペアになって作業に取り組むことになった。支援手続きは、仲間意識を強めるために、作業学習の題材である機織りの一部分の工程において、助け合う必要のある作業を設け、教師がそれを促すための働きかけを行うものであった。このような支援によって、生徒たちは、次第に授業中に互いに声を掛け、助け合いながら作業を進めることを数回繰り返すようになった。支援は研究計画の都合で1学期という短期になったが、その間に一定の効果が示されたと考えられた。具体的には、学期前半は十分な意志疎通がなかったり、勝手な判断による作業ミスが多く示されたものの、学期後半では、ペアの相手の作業状況に注意を向けるようになり、助けが必要な状況では、声を掛けることや手助け行動を示すといった変容が観察された。このことから、作業学習において、助け合うことが要求される作業工程の設定と教師の働きかけによって、知的障害のある生徒の仲間関係を促し、協働関係を形成できる可能性が示唆された。
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