本研究課題は、生体内の高機能・高性能な多くの分子が自己組織化により形成されることに基づいて、自己組織化の推進力としてこれまであまり認識されてこなかった“不可逆的な光反応”を用い、形成される分子集合体に新たな機能を発現させることを通して、新規な高分子材料の創製を目的としている。 平成29年度は、不可逆的光反応として光ラジカル重合を自己組織化の推進力として用い、これにより形成されるマイクロサイズのジャイアントベシクルについて、膜透過性の付与とサイトーシス(膜動輸送)の発現について検討を行った。膜透過性の付与では、親水性のポリメタクリル酸と、疎水性のメタクリル酸メチルとメタクリル酸のランダム共重合体からなる両親媒性ジブロック共重合体を構成単位とするジャイアントベシクルについて、その内核を形成するランダム共重合体セグメントに、スルホン酸カリウム塩を側鎖官能基として導入することにより、膜透過性を生み出すことができた。特に、スルホン酸カリウム塩が担持されていないジャイアントベシクルはイオン性の色素に対して全く透過性を示さなかったのに対し、スルホン酸カリウム塩を有するジャイアントベシクルでは、この側鎖官能基が集合して膜中に小孔を形成することによりイオン性色素を取り込むことがわかった。このスルホン酸カリウム塩を持つジャイアントベシクルについて、生体膜の重要な機能の1つであるサイトーシスを発現させることにも成功した。生体内でサイトーシスは、生体膜中に存在するある種の膜タンパク質が、生体膜の一部を発芽分離させることにより引き起こされる。そこで、スルホン酸カリウム塩と静電気的相互作用を持つことが期待される高分子電解質を膜タンパク質のモデルとして用いた結果、ベシクルの分裂が観察された。この研究は、両親媒性ブロック共重合体と高分子電解質を用いる新奇な膜タンパク質モデルの創製につながった。
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