研究課題/領域番号 |
25390004
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
市橋 正彦 豊田工業大学, 工学部, 准教授 (90282722)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 銅クラスター / 二酸化炭素 / メタノール合成反応 / 還元反応 / 多成分化 / 質量分析法 / 赤外分光法 / 希ガスクラスターマトリクス |
研究概要 |
今年度は、(1)銅クラスターの測定サイズ領域の拡大、(2)荷電状態による反応性比較、(3)第2成分の導入、(3)極低温での赤外分光法の開拓、を進めた。 銅クラスター上での、二酸化炭素(CO2)からのメタノール合成の最初の過程は、CO2および水素の吸着である。まずはCO2の吸着に的を絞って17量体以下のサイズ領域で研究を行なった。正イオンではCO2の吸着はほとんど観測されなかったが、負イオンでは8量体を極大として、6から10量体の範囲で効率よく吸着することが観測された。さらに、酸素分子の先吸着によってCO2の吸着性が向上することも確認された。 また、銅クラスターの還元作用をより一般的に調べるために、一酸化窒素(NO)の還元反応を調べた。その結果、この反応においても荷電状態によって反応性が大きく異なることが判明した。すなわち、正イオンに比べて、負イオンのほうがNOの吸着効率が高く、さらに、予め酸素を付加しておくことによって、NOの吸着効率および反応性が顕著に増大する。NOの吸着に伴なってクラスターから銅原子の脱離も進行し、これはNOが解離吸着し、大きな吸着エネルギーが放出されることを示唆している。 さらに、銅試料および第2成分試料の同時スパッターによって、ロジウムなどの第2成分を銅クラスターに添加することに成功した。今後、反応に対する第2成分の効果の解明に取り組んでいく。 一方、赤外分光法に関しては、既存の装置の感度と分解能を向上させるための改造を始めた。その1つは極低温化であり、測定対象であるクラスターを低温マトリクスである希ガスクラスターに取り込む手法を開発している。今年度は、サイズ選別した金属クラスターイオンを、合流型衝突によってアルゴンクラスターに取り込むことに成功した。今後、低温マトリクスとしてヘリウムクラスターを用いて、赤外分光測定を行なう予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究の狙いは、銅クラスターの持つ還元特性に着目し、このクラスター上での二酸化炭素の水素化によるメタノール合成の反応性探索と反応性の支配要因を解明することである。特に今年度は初年度として、反応探索を行なう銅クラスターのサイズ領域の拡大と銅クラスターへの第2成分の導入が大きな目標であった。サイズ領域の拡大に関しては既存のクラスターイオン源を調整し、クラスターイオンの強度を高めることに成功した。これによって、反応実験に用いることが可能なクラスターサイズの上限が7量体から17量体へと大きく向上した。また現在、新たなクラスターイオン源の調整を進めている段階であり、さらなるサイズ領域の拡大を目指している。また、銅クラスターへの第2成分(アルミニウム、チタン、ロジウム、銀)の導入にも既に成功しており、これらのクラスターを用いて二酸化炭素の活性化を調べる予定である。 一方、研究成果として、クラスターの荷電状態による反応活性の違い、および酸素の先吸着によるクラスターの活性化に関して予想を遥かに上回る結果が得られ、これを解明するために詳細な測定と理論計算を開始したところである。銅クラスターにおけるこのような効果の一般性に関しても、分子の還元反応という点に着目して広く研究を行なっているところである。 さらに、吸着分子の幾何構造やクラスターの電子構造の観点から反応性を解明していくために、今後、赤外分光法を用いて研究を進めることを計画している。このためには、赤外分光法の高感度化および高分解能化が避けて通れない。これを実現すべく、装置の改造に既に着手している。 このような状況で研究全体を眺めると、研究計画にそって着実に進んでいるとともに、研究結果に応じてさらに詳細な研究を進めている点、将来的な実験の準備を進めている点を考慮して、この研究はおおむね順調に進展していると判断される。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の大きな成果の1つとして、銅クラスターに第2成分を導入する手法を確立したことが挙げられる。まずは、添加する原子の種類によって反応性の向上あるいは低下がどのように発現するかを見極めることがこの研究の大きなねらいとなる。また、第2成分をクラスターに効率よく取り込ませるために、第2成分用の蒸発源を新たに用いることも計画している。これによって、銅クラスターの生成を最適化した状態で、真空中に導入する第2成分の量を独立に制御できるようになり、第2成分を添加した銅クラスターを効率よく生成することが可能となる。第2成分添加-銅クラスターでは、添加した元素の種類だけではなく、クラスターサイズや荷電状態も反応性に影響を及ぼすと考えられる。絨毯爆撃的な探索ではなく、効率よく探索を進めるために、得られた実験結果を解析し、反応性一般へと理解を深め、反応性の向上に寄与する特性を抽出することが重要である。理論計算を積極的に活用していくことを考えている。 また、クラスターサイズ領域をより大きいほうへ広げていくために、新たなクラスターイオン源の開発にも取り組んでいく。手法としてはマグネトロンスパッター源を用いてクラスターを生成することを計画しており、50量体程度までの銅クラスターイオンを生成できると期待している。将来的には、このクラスター源を第2成分の蒸発源と組み合わせることによって、反応性探索範囲を飛躍的に広げることが可能になる。さらに、反応性を吸着分子の幾何構造およびクラスターの電子構造の観点から解き明かすために、高分解能での赤外スペクトルの測定の準備も進めていく。対象となるクラスターを冷却するためにヘリウムクラスターへの取り込みを目指して、装置の改造を行なっている。この手法を用いて、二酸化炭素と水素がクラスター上で反応して、メタノールあるいは水酸基を持つ反応中間体を検出する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
各物品を購入するの交渉により、値引きをしてもらうことができた。そのため次年度使用額が生じた。 次年度交付額と合わせて物品費などに充てる予定である。
|