研究実績の概要 |
酸化還元の容易な銅は貴金属触媒の代替として有利な性質を持っている。この銅にさらに優れた反応性を付与するために、異種金属を助触媒として添加することが有効と考えられる。我々はこの効果を構成原子数の観点から探索し、その要因を解き明かすことを目指して研究を行なった。まずは、真空中で共スパッタ法を用いて、典型金属(Al)、一般的な遷移金属(Ti, V, Zr)、貴金属(Rh)など様々な金属を添加した銅クラスター(総原子数20程度以下)を生成する手法を開発した。この手法により生成したクラスターを用いて、異種金属原子を1原子添加しただけで銅クラスターの反応性が劇的に変化することを見出した。 二酸化炭素CO2の水素化によるメタノール合成を目標として、まずCO2の活性化反応を調べた。その結果Ti, V, Zrなどの遷移金属を添加した場合に、CO2が容易にクラスターに解離吸着することが観測された。これはE-R機構ではなくL-H機構でCO2を反応物として利用できることを示唆している。また、一酸化窒素NOの分解ではAl, Ti, Vを含む銅クラスターの反応性が顕著に高くなるとともに、窒素N2の生成を示唆する結果が得られた。興味深いのは貴金属であるRhを添加しても反応性向上が小さいことである。最終年度に行なった詳細な解析によると、Alなどを添加した場合には反応活性点が添加原子の近傍の銅原子にも広がる反面、Rhを添加した場合にはそのような活性点の広がりが観測されないことがわかった。 さらに、このような反応の中間体を同定するため、新装置の開発にも取り組んだ。この装置の特長は反応中間体を高感度、高分解能で検出・同定するためにヘリウム液滴を用いる点である。現在、ヘリウム液滴を極低温マトリクスとして金属クラスターを閉じ込めることに成功しており、赤外解離分光法により電子・振動分光を行なえる段階にまで到達した。
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