研究課題/領域番号 |
25390008
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
斎藤 峯雄 金沢大学, 数物科学系, 教授 (60377398)
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研究分担者 |
石井 史之 金沢大学, 数物科学系, 准教授 (20432122)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | グラフェン / 強磁性基板 / ラシュバ効果 / 第一原理計算 / スピン軌道相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究では、基板がグラフェンに影響を及ぼし,新しい物性が出現する可能性を探ることを目的としている。本年度は、昨年度に引き続き、強磁性基板Ni上のグラフェンの電子状態を,解析した。計算には、OpenMXコードを用い、相対論的第一原理計算を実行し,スピン軌道相互作用を考慮した。はじめに、Ni基板上1層及び複数層のグラフェンの計算を行った。部分状態密度の解析により、Ni基板直上のグラフェン1層は、Ni基板の影響を強く受けることが明らかになった。このとき、グラフェンのA副格子とB副格子では、スピンの方向が逆で有り、反強磁性的スピン配置となっていることが明らかになった。いっぽう、2層目以降では、Niの影響は小さくなり、部分状態密度は、グラフェンの状態密度に近づく事が分かった。ただし、部分状態密度の解析によりグラフェン層に少し電子が移動している事が明らかになった。 つぎに、Ni基板が直上のグラフェン層にのみ強い影響を与えることに鑑み、Ni上1層グラフェンにつき、スピン軌道相互作用の影響について調べた。この系では、Ni基板からの影響により、スピン分裂が起こる。スピン軌道相互作用を入れた計算と入れない計算を行い、この系のラシュバ分裂を明らかにした。これまでの実験的研究では、大きなRashba効果と小さいRashba効果がそれぞれ観測され、その違いがどの様な原因で生じるのかは不明であった。本研究の結果は、小さいRashba効果を支持した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、基板がグラフェンに有用な物性を発現させるかどうかを明らかにすることを目的としている。これまでの研究から強磁性Ni基板がグラフェンの電子物性に対して重要な影響を及ぼす事を明らかにした。とくに、基板がグラフェン1層の電子構造に大きな影響を与えることを明らかにしており、グラフェンの電子物性に対してスピン軌道相互作用の影響が大きい事を明らかにした。このことは、グラフェンのスピントロニクス応用について重要な知見を与えるものである。 Ni上の複数層のグラフェンにおいて、Ni直上のグラフェン1層を除くと、各グラフェン層の部分状態密度は、フリースタンディングなグラフェンのものに近い事が分かった。ただし、電子の移動により、Nい基板に近い層ほど、電子がドープされる事が分かった。この様な知見は、今後複数層グラフェンのデバイス応用に対して重要と考える。 また、本研究では、グラフェン系に対して量子伝導の計算を行えるように、試験的計算を行った。本計算は、非平衡Green関数法に基づくものである。これにより、今後グラフェン関連物質を含むデバイス構造に対して量子伝導の計算ができる準備ができている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、強磁性Ni基板上のグラフェンについて、第一原理原理計算を行い、有用な知見を得ている。今後、これらの知見をもとに、非磁性金属および絶縁体基板上のグラフェンについて研究を行う。またグラフェン関連の特異な原子構造に対して、伝導の性質がどうであるのかを明らかにする。 また、これまでの研究から、基板とグラフェン間の距離がグラフェンの物性に多大な影響を与えることが分かった。そこで、今後第一原理計算により、この様な距離を見積もる必要がある。すでに、2層グラフェンの層間距離に対して、ファンデルワールス密度汎関数法による計算を行った実績がある。この計算手法を今後基板・グラフェン間の距離計算に適用する事を検討する。 グラフェンとならび同じく6員環構造を持つ、BNシートやシリセンにも多くの科学的興味がもたれている。本研究では、グラフェンの研究を中心に進めていくが、この研究動向を鑑み、随時、上記の様な6員環構造について研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度掲載許諾を得た論文(JJAP)は年度末だったことがあり、次年度に支払うこととした。また、本年度末に投稿準備していた論文二つは、次年度はじめに投稿予定であり、次年度に支払い予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の様に本年度掲載された論文の支払いを次年度行い、また、本年度の研究成果をまとめた論文の掲載料も次年度支払い予定である。
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