本研究全体を通し、基板がグラフェンにどのように有用な物性を与えるのかを調べた。とくに、特筆すべきなのはNi基板上のグラフェンの研究である。Ni基板上の多層グラフェンの計算を行い、部分状態密度の解析により、基板直上グラフェン層が特に強い影響を受ける事が明らかになった。このことに着目し、Ni基板上の一層グラフェンがどのような物性を持つのかを明らかにした。グラフェン自体は軽い炭素原子のみからなり、スピン軌道相互作用の影響は極めて小さい。しかしながら、Ni基板との相互作用により、グラフェンは、スピン軌道相互作用の影響を受けることにより、電子構造においてラシュバ分裂が見られることを明らかにした。このことから、Niに限らずスピン軌道相互作用の影響が強い基板を用いることにより、グラフェンのスピントロニクス応用の応用の可能性を示した。また、Ni基板とグラフェン間の距離の違いにより、グラフェンにおける電子状態が変化することを見いだし、このような距離を精密に評価することが重要であることが明らかになった。また、本研究では、2層グラフェンにアルカリ金属を挿入した場合の計算を行い、超伝導発現の可能性を示したが、とくに、層間距離を制御することができれば、超伝導発現の条件を満たせることを明らかにした。本研究においては、ファンデルワールス相互作用補正を行った密度汎関数法計算(DFT-D2)を行い、層間距離をより精密に評価する試みを行った。とくに、平成28年度の研究から、DFT-D2法を用いた計算と局所密度近似を用いた計算では、多層グラフェンの層間距離において違いが生じることが明らかになった。
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