研究課題
基盤研究(C)
本年度は、ポルフィリンが平面的に配位した金クラスター(π接合金クラスター)を合成し、その構造決定を行った。また、π-金属界面に働く相互作用を分光学的手法を用いて調査した。ポルフィリン環と金クラスター間に働く相互作用の距離依存性を調査するため、チオフェノール基をポルフィリンのメソ位に有するポルフィリン誘導体(SC0P)と、ポルフィリンのメソ位のフェニル基とアセチルチオ基の間にメチレンおよびエチレンを有するSC1PとSC2Pを合成した。SCnP(n = 0 ~ 2)保護π接合金クラスター(SCnP-AuCs)は、低温条件下、液相中においてSCnPの存在下でNaBH4を用いて金イオンを還元することにより行った。得られたSC0P-AuCの構造を原子分解能HAADF-STEMと元素分析を用いて調査した結果、組成式Au309(SC0P)14であり、SC0Pが金クラスター表面に平面配位していることが示唆された。次に、SC1P-AuCとSC2P-AuCの構造を、MALDI-TOF-MS、ICP-AES、STMを用いて調査した結果、組成式Au65(SC1P)6とAu66(SC2P)6が得られ、これらはすべてのポルフィリンが金クラスターに平面配位した立方体型ナノ構造体であることが示唆された。次にπ-金属界面に働く界面相互作用を調査するために吸収スペクトル測定を行ったところ、金クラスターに平面配位することによりポルフィリンのSoret帯の吸光係数の減少と長波長シフトが観察された。この吸収の変化は金クラスターとポルフィリンの距離が近づくにつれて顕著になったため、π-金属界面に働く相互作用は距離依存性があることが示唆された。SC0P-AuCは構造上、現在までに報告されているπ接合金クラスター中で最も強い相互作用が起こっていると考えることができ、高い触媒活性の発現が期待される。これらの結果は、国際的な学術誌であるChemical Scienceに掲載されるなど高い評価をうけた。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、π接合金クラスターを合成し、π接合が金クラスターの触媒能に与える影響を明らかにすることにより、新たな触媒を創製することである。このために研究期間内に一連のポルフィリンπ接合金クラスターを作成し、ポルフィリン-金クラスター間の相互作用および実際の触媒能を系統的に調査する事を予定している。このうち、平成25年度はポルフィリンと金クラスター間に働く相互作用の距離依存性を調査するため、ポルフィリンと金クラスター間の距離の異なる一連のπ接合金クラスターの合成と構造解析を主に行う予定であった。期間中にポルフィリンと金クラスターの距離の異なるポルフィリンπ接合金クラスターの合成に成功しているため、おおむね当初の予定通りに研究が進展していると考えられる。
平成25年度の研究期間においてポルフィリンと金クラスター間の距離の異なる一連のπ接合金クラスターの合成と構造解析をに成功した。今後は、ポルフィリン-金クラスター間の相互作用の解明とクラスターの触媒活性におけるπ接合の影響の評価を行う。また同時に、現在得られたπ接合金クラスターとは異なる金原子数のπ接合金クラスターの合成にも着手する。これは、金クラスターの触媒活性がクラスターの原子数に大きな影響を受けるためである。平成25年度は分光学的手法を用いてポルフィリン-クラスター間の相互作用の調査するにとどまったが、今後はX線光電子分光、紫外光電子分光法、計算化学などを駆使して包括的に相互作用の解明を試みる。具体的にはクラスター表面からポルフィリンまでの距離の異なるSCnP-AuC、様々な中心金属を含むポルフィリン、垂直配位ポルフィリンを修飾した金クラスターをX線光電子分光、紫外光電子分光法を用いて系統的に調査し、得られた結果を計算化学により解析することにより、相互作用の原因と強い相互作用が起こるために重要な要素を明らかにする。また、相互作用の解明が進み次第、アルコールの酸化などクラスターの触媒活性におけるπ接合の効果の評価を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (16件) 備考 (1件)
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http://www.scl.kyoto-u.ac.jp/~teranisi/