研究実績の概要 |
今年度は、ポルフィリンが平面的に配位した金クラスター(π接合金クラスター)を合成し、その触媒能の評価を行った。ポルフィリンのπ軌道と金クラスター間に強い相互作用を有するクラスターを合成するため、チオフェノール基をポルフィリンのメソ位に有するポルフィリン誘導体(SC0P)と、ポルフィリンのメソ位のフェニル基とアセチルチオ基の間にメチレンおよびエチレンを有するSC1PとSC2Pを合成した。さらに、金に対してより強い配位能を示すポルフィリン誘導体5α,10α-bis(2-ethylthiophenyl)-15α,20α-bis(2’-ethylthiophenyl)porphyrin (SC2P-SS) を合成した。ポルフィリン保護π接合金クラスター(SCnP-AuCs)は、液相中においてSCnPの存在下でNaBH4を用いて金イオンを還元することにより行った。最終的には金原子数およそ24,55,100,309個のクラスターに対し、ポルフィリンを面として有するサンドイッチ、四面体、立方体、14面体状の構造を有するクラスターの合成に成功した。 次に相互作用を調査するために吸収スペクトル測定を行い、金クラスターとπ系で相互作用が生じていることが明らかになった。そこで、SCnP-AuCsのベンジルアルコールの酸化反応の触媒活性を評価したが、活性を得ることはできなかった。これは、ポルフィリンによりクラスター表面への基質の配位が妨げられることが原因であると考えられるため、基質が配位可能なπ共役配位子の合成を進めている。 当初の目的である触媒能を評価するという観点からは、目的を達成したとは言い難いが、研究を通じ様々なπ共役分子修飾金属クラスターの合成に成功した。これらの結果から、クラスターの合成、触媒応用といった研究に寄与できる有用な知見を得ることができ、優れた業績を上げたと考えられる。
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