研究課題/領域番号 |
25390018
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
西尾 和之 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 准教授 (00315756)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 多孔質皮膜 / アノード酸化 / 金 |
研究概要 |
はじめに,金をカルボン酸水溶液中でアノード掃引した際の電気化学的挙動を確認した.しゅう酸水溶液中では,水銀/硫酸水銀参照極に対して0.4Vからアノード電流が立ち上がるが,1.2Vあたりから急減し,再び立ち上がっていく.しかし,クエン酸を始めとするその他のカルボン酸11種の水溶液では1.4Vからアノード電流が立ち上がり,その後直線的に増加していった.その時の電流値はカルボン酸水溶液の電導度に依存した.しゅう酸水溶液中で得られた皮膜は黒色であるが,しゅう酸以外のカルボン酸水溶液では,金酸化物の形成を示すオレンジ色となった.この皮膜は室温で不安定であり,アノード酸化後のオレンジ色が数日で黒色となり,その後退色し,約1ヶ月後には灰色がかった金色となった.クエン酸水溶液中で形成したアノード酸化皮膜のSEM観察では,室温での変化を認めることができなかった.しかし,TEM観察により,アノード酸化後の色調の変化の際にナノ粒子状の金が成長することがわかった.アノード酸化後の黒色化は,皮膜中に高密度で分散した微細な金による入射光の散乱と吸収によるものと推測される.退色は,より成長した粒子状の金の表面で,バルクの金に類似した反射特性を示すものと考えられる.退色後の皮膜に20at.%程度の炭素が残存するため,金本来の色調に戻らず,灰色がかった色になっているものと思われる.皮膜の色調変化をXPS測定で化学的に追跡したところ,アノード酸化直後の皮膜中の金は3価の酸化状態であるが,その後金酸化物の還元が進行し,退色皮膜では金酸化物が消滅することが確認された.クエン酸水溶液中で金をアノード酸化し,その後十分な時間をかけて還元させた試料について窒素の吸着等温線とBET法により多孔体としての評価を行ったところ,試料は10nm前後のメソ細孔を有し,その比表面積は約60m2/gであることがわかった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カルボン酸水溶液中での金のアノード酸化挙動について,基本的な物性を把握する事ができた.金多孔質皮膜が得られるしゅう酸水溶液中でのアノード酸化に対し,しゅう酸以外のカルボン酸水溶液を用いると金酸化物の多孔質皮膜が得られたが,室温で変性(金酸化物の還元)が進行するため,その評価に時間を要した.そのためにしゅう酸とクエン酸以外のカルボン酸水溶液中での挙動の把握が進んでいないものの,金酸化物皮膜を形成するという根本的な評価は済ませている.
|
今後の研究の推進方策 |
カルボン酸水溶液では,クエン酸と分子構造が大きく異なるカルボン酸である,蟻酸を中心にアノード酸化皮膜の特性の評価を進めていく.また,硫酸,過塩素酸,リン酸などの無機酸とその塩類を電解液とした金のアノード酸化挙動の把握を行い,皮膜中での不純物の混入量とその状態,金酸化物の還元に伴う不純物の変化を調査していく. 金のアノード酸化では電解液の電気分解を伴うため,気体を含む分解物の定性・定量解析によるアノード酸化挙動の把握を行う.
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画ではガスクロマトグラフィーを購入し,金をアノード酸化した際に電極表面で発生するガスの定性・定量分析を実施する予定であった.しかし,研究を遂行する中でガスクロマトグラフィーの緊急性が下がり,より基本的な装置である電気化学分析装置を購入する事となった.次年度使用額が生じた主な原因は,これらの装置の差額となっている. 次年度使用額でガスクロマトグラフィーを購入する余裕が無いため,委託分析で使用する予定である.
|