平均結晶粒径が数ミクロン以上の通常の多結晶材に対して、数10nmの超微細多結晶材料(ナノ結晶材)では種々の特異物性が発現する。我々は通常の多結晶材に対する相対密度が99%と高密度高品位な粒径約30nmの金ナノ結晶材をガスデポジション法により作製し、作製直後の格子定数が通常の金多結晶材に比べて約0.05%収縮していること、弾性変形に関して200K以上で粒界擬弾性による動的弾性率の低下及び内部摩擦の急増を見出した。加えて、塑性変形では粒成長を伴わずに結晶子配向性が大きく変化することや約200MPa以上でクリープ変形速度が数桁にも渡って増大することも観測している。これらの現象は、金ナノ結晶材が単元系にもかかわらず結晶子と粒界層の二相準安定状態となっていることを示唆する。そこで、この結晶子+粒界層二相準安定状態の検証及びその原因機構を追求するべく、格子定数、擬弾性特性、熱物性、電気抵抗などについて精査した。 その結果、動的弾性率の増大、比熱の増大、そして電気抵抗率の減少が約150K付近に共通して見られた。金属材料では空孔型欠陥の導入により、結晶格子収縮、動的弾性率減少、電気抵抗率増大が生じ、また乱雑構造の非晶質合金では空孔型欠陥の導入によりガラス状態から過冷却液体状態への変化が知られている。金ナノ結晶材での格子収縮を結晶子に含まれる過剰な空孔型欠陥によるものと考えると、約150K付近で結晶子から粒界層へ空孔型欠陥の一部が移動して動的弾性率の上昇及び電気抵抗率の減少、さらには空孔型欠陥流入による粒界層のガラス転移的変化及び粒界擬弾性(粘弾性的)発現として説明可能である。また、格子収縮量の時間経過による回復の様子は空孔型欠陥の結晶子内から粒界層への移動過程で説明可能であることからも、過剰な空孔型欠陥が金ナノ結晶材の特異物性に関与していることが明らかになった。
|