材料組織におけるかたちには材料物性を反映した特徴がある.合金中の結晶性ナノ析出物粒子の平衡形状は,低指数の結晶面で取り囲まれ,丸い角を持つ多面体と球のあいだのかたちになることがある.析出物粒子の形状が球と多面体のあいだの形状になる理由は,ナノサイズの析出物粒子の形状が母相とのあいだの整合ひずみによる弾性ひずみエネルギーに支配されて決まること,そしてこれらの金属における弾性係数に異方性(<100>が弾性的に柔らかい方向)が顕著であることで理解できる.研究代表者らはこれまで,このような形状を表現できる超球と呼ばれる空間図形に注目して考察を行い,ニッケルや銅を主成分とする合金中に観察されるナノサイズの析出物粒子の形状と熱処理に伴うその変化が超球近似で系統的に表現できることを示してきた.本研究では,この独創的な超球近似をさらに改良し,超球形状とその変化を示す変数に適切な意味を与える拡張を行う.これは,材料の組織制御に必要な基礎的な知見を得るための研究である. 平成26年度までは種々の実験的研究を行ってきた.平成27年度は,これまでに得られた知見をもとにして理論的研究を進めた.球は体積一定のもとで表面積を最小にする空間図形であるが,体積と表面積の関係から多面体の形状が球とどれだけ異なるかを議論するための変数にSteinitz数と呼ばれるものがある.平成27年度に行った理論的研究では,このSteinitz数の3乗根 N を指標にすると,種々の拡張超球について多面体度を合理的に表現できることを示した.そして,純粋膨張型ミスフィットひずみを持つ超球形状析出物を含む材料の弾性ひずみエネルギー密度が,球から多面体への形状変化でどのように変化するかを変数 N の関数として表現した.
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