研究実績の概要 |
カーボンナノチューブの空洞内が鉄ナノワイヤで満たされた,鉄内包カーボンナノチューブ(Fe@CNT)は,その高アスペクト比形状のため高い保磁力を発現する。これを用いて繊維状集合体を形成すれば,様々な磁気応用に利用可能となることが期待される。本研究では,Fe@CNTを応用に供することを目的とし, (1) Fe@CNTの磁気特性制御法の確立(保磁力向上),(2) Fe@CNT繊維の紡績技術確立,の二点に注目して研究を実施した。 (1) Fe@CNTの磁気特性制御法の確立については,Fe@CNT合成条件によるその磁気特性への影響を詳細に調査した。様々な金属薄膜種を用いた場合におけるFe@CNT成長特性および磁気特性を調べたところ,従来用いていたFe以外のNi,Al薄膜でも比較的高効率にFe内包CNTが成長することが確認された。さらにこのNi薄膜を大気中酸化処理したものを用いてFe@CNT成長を行ったところ,その保磁力はFe触媒薄膜上に成長させた場合に比べ大幅に増大し,最大2.1 kOe程度に到達する結果を得た。以上より,2.0 kOe以上の保磁力を有するFe@CNTの合成に必要な条件が明らかになった。 (2) Fe@CNT繊維の紡績技術確立については, Fe@CNTを基板から剥離させ,基板から自立したFe@CNTシートを作製するための方法を検討した。種々の方法を検討した結果,Si基板上に成長したFe@CNTを薄膜に酢酸ビニル樹脂を塗布,乾燥させたのち,樹脂に包埋した状態のFe@CNTを基板から剥離させる方法を用いることで,基板から自立した状態のFe@CNTシートを容易に作製できることを見出した。さらに磁場中でFe@CNTを平面基板上にスプレー堆積させFe@CNT薄膜を形成したところ,磁場印加方向に明瞭な磁気異方性を示すことを確認した。この薄膜を上記の方法で基板から剥離することで,基板から自立したFe@CNTシートの作製に成功した。これにより,磁化の方向を任意に制御したFe@CNT繊維(シート)の作製方法確立の目処を付けることができた。
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