研究課題/領域番号 |
25390041
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
羽鳥 晋由 山形大学, 理工学研究科, 准教授 (00283036)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アクトミオシン / モータータンパク質 / 電場 |
研究実績の概要 |
生体分子モーターであるミオシンとアクチンによる運動系を用いた微小輸送システムの構築を目指す.ガラス基盤上にミオシン分子を固定した後,アクチンフィラメントとアデノシン三リン酸を加えることで,アクチンフィラメントの極性に従って一方向の運動を発生させることができる.但し,この運動は個々のフィラメントの方向が無秩序であるために,実効的な物質輸送を困難にしている.前年度では,透明導電性基盤への電圧印加により温度を増加させ,運動速度を制御することができた.本年度は白金製の微小電極をフローセル内に設置し,印加電圧に対するアクチンフィラメント運動の応答性を調査した.直径0.05mmの白金線2本の間隙を0.05 mmから10 mmの範囲で変化させると共に電圧を30Vまでの範囲で印加させた.電圧の増加に伴って,次に示す3つの振る舞いが順次観察された:(1)アクチンフィラメントのプラス極への移動,(2)アクチンフィラメントの停止,(3)アクチンフィラメントのミオシンからの解離.これらの応答は,電極間隙が小さいほど小さな電圧で発生した.(1)については,間隙5 mm,KCl 35mMの条件で確認されたが,運動を維持することが困難であった.(2)については,間隙5 mm,KCl 15mMで12V電圧の印加時に再現よく観察され,電圧印加停止後に,運動が回復することが確認された.(3)については,電圧の印加を停止しても再結合は見られなかったため,不可逆的であった.これらの結果から,ある限定的な条件ではあるが,アクチンフィラメントの運動を可逆的に停止させるような制御方法の開発に繋がる可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的のひとつであるアクチンフィラメントの運動方向を制御するための条件がわかり,電場印加によるアクチンフィラメントの運動特性の変化について新たな知見を得た.特に電圧印加によるアクチンフィラメントの可逆的な停止は,今までに知られていない現象である.停止の原因を探るため緩衝液の種類やイオン濃度を変化させて応答を調べたが,本質的な究明には至らなかった.今後この原因を明らかにできれば,アクチンフィラメントの運動を制御する方法になり得る.これとは別に,アクチンフィラメントに物体を取り付けたときの運動性を調査した.物体としてポリエチレングリコール(PEG)を用いてアクチンのCys374を介して共有結合させた.分子量2000のPEGの場合には,アクチンに対してPEGを1:1で結合させたフィラメントでも付加していないものと同等な運動速度を示した.このPEGの慣性半径1.8nm程度の大きさの物体であれば運動機能に影響を与えずに輸送できる可能性がある.分子量5000のPEGの場合では,運動速度は変わらないが,運動可能なフィラメントの割合が低下した.分子量10000ではほとんどのフィラメントが運動不能になり,この大きさがミオシンとの相互作用を妨害する輸送限界であることがわかった.
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今後の研究の推進方策 |
前年度・今年度の研究によって,ミオシン基盤上でのアクチンフィラメントの運動の促進,停止,物体の運搬などの特性が明らかになってきた.今後は,これらを統合してどこまで制御可能かどうかを調査すると共に,方向制御に関しては混み合い環境下での自己組織化を利用した方法の有効性を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年の3月に,本研究の遂行に必要な分析機器(分光光度計)が故障した.次年度での分光光度計の購入のための資金の一部として確保するため.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の予算と合わせて分光光度計を購入する.
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