生体分子モーターであるミオシンとアクチンによる運動系を用いた微小輸送システムの構築を目指すことを目的とした.2枚のスライドガラスからなるフローセル内のガラス表面上にミオシン分子を固定した後,アクチンフィラメントとアデノシン三リン酸を加えることで,アクチンフィラメントの極性に従って一方向の運動を発生させることができる.本年度では,白金製の微小電極(直径50 um)をフロー セル内に設置し電圧を印加したとき,アクチンフィラメントの運動の変調を調査した.電極の間隙を1 mmに設定し,2.5 Vの電圧を0.1秒間印加したとき,陰極側でアクチンフィラメントの速度が増加し,陽極側では速度が減少した.陰極側と陽極側では,対極的な応答を示したことから,電場による電気泳動とは異なる原理によるものと考えた.そこで,pH感受性の色素を結合させたアクチンフィラメントを用いて電圧印加時の蛍光強度変化を測定した結果,陰極側でpHの増加が,陽極側でpHの低下が確認された.このことから微小電極に適切な電圧を印加することで,電極付近で水の電気分解によるpH変化が生じ,そしてアクチンフィラメントの運動速度の変調が起こったと考えられる.電圧の極性の切り替えにより,繰り返してアクチンフィラメントの運動の増減をコントロールでき,再現性も高かった.本研究の結果は,電圧の印加・停止によってモータータンパク質の運動を迅速に調節する新たな方法を提供し,今後,微小輸送システムの運動制御への応用が期待される.
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