研究課題/領域番号 |
25390048
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
林 慶 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70360625)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 低分子有機物 / 熱電変換 / 薄膜 |
研究実績の概要 |
今年度は前年度の成果を発展させて、(1)構築した3ω薄膜熱伝導率測定装置の評価、(2)大気中で固相反応法により合成したTTF-Ix粉末(x:仕込みのヨウ素の量、0.6<=x<=0.8)の結晶構造解析、(3)TTF-Ix粉末を蒸着源とした薄膜の作製と電気伝導率・ゼーベック係数測定を行った。さらに(4)ペンタセン薄膜とTTF-TCNQ薄膜の発電特性測定を行った。詳細を以下に示す。 (1)マスク蒸着によりガラスに50μm幅と7μm幅の金細線を成膜した。太い金細線にはボイドが存在したため、細い金細線を使用してガラスの熱伝導率を評価したところ、レーザーフラッシュ法で求めた熱伝導率と同等の値を得ることに成功した。ただし、スイッチユニットなどで生じるノイズのため、測定誤差は大きかった。 (2)以前よりTTF-I0.71は複合結晶である可能性が指摘されており、合成したTTF-I0.71粉末のX線回折を行って、(3+1)次元の結晶構造であることを明らかにした。また、0.6<=x<=0.8として合成した粉末は、実際にはTTF-Iy(0.708<=y<=0.714)であることがわかった。 (3)(2)で得た粉末を蒸着源として薄膜を作製したところ、TTF-Iz薄膜(0.710<=z<=0.714)を得ることができた。ヨウ素の量が多いほど、電気伝導率が増加、ゼーベック係数は減少した。結果として、出力因子はzが最も大きい薄膜で最大となり、8.5 nW/mK2であった。 (4)ヨウ素ドープしたペンタセン薄膜とTTF-TCNQ薄膜の両端を20℃と55℃にして、35℃の温度差をつけた。開放電圧と最大の出力は、ペンタセン薄膜では0.8 mVと0.5 nW、TTF-TCNQ薄膜では0.25 mVと0.016 nWであった。低分子有機物の出力を初めて計測することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標は、(1)3ω薄膜熱伝導率測定装置の評価、(2)TTF-Ixのバルクと薄膜の結晶構造解析、(3)TTF-Ix薄膜の電気伝導率・ゼーベック係数・熱伝導率計測であった。 (1)の薄膜熱伝導率測定装置については、ガラスで計測誤差の評価を行った。計測プログラムの改良とガラスの設置方法の改善により、交流電圧の測定誤差を15 μVまで抑えることができた。現時点では熱伝導率の誤差は測定値よりもわずかに低い程度である。なお、誤差の原因はスイッチユニットなどで生じる電気的ノイズによるものであることがわかっている。 (2)TTF-Ix(x:仕込みのヨウ素の量、0.6<=x<=0.8)の結晶構造解析を行い、(3+1)次元の結晶構造であることを世界で初めて明らかにした。実際に、固相反応法でTTFとヨウ素の組成比が異なるTTF-Iy(0.708<=y<=0.714)粉末を合成可能であることがわかった。また、薄膜でもTTFとヨウ素の組成比を変えられることを明らかにした。 (3)(1)で述べたように、3ω薄膜熱伝導率測定装置は測定誤差が大きいため、低分子有機物薄膜の熱伝導率計測には至っていない。しかしながら、TTF-Iz薄膜(0.710<=z<=0.714)の電気伝導率とゼーベック係数の測定に成功し、zが大きいほど電気伝導率が大きく、ゼーベック係数が小さいことを明らかにした。 以上で述べたように、薄膜熱伝導率計測の進捗がやや遅れているものの、今年度は(1)~(3)の結果に加えて、ペンタセン薄膜とTTF-TCNQ薄膜の発電特性を測定することに成功していることから、研究はおおむね順調に進展していると結論できる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたり、今後はキャリア移動度を制御した低分子有機物薄膜を作製する。対象とする低分子有機物薄膜は、ペンタセン薄膜、TTF-TCNQ薄膜、TTF-Ix薄膜とする。キャリア移動度を制御するために、成膜時の基板温度を変化させる方法を適用する。キャリア移動度の異なる薄膜を作製できたら、電気伝導率・ゼーベック係数・熱伝導率を計測し、キャリア移動度との関係を明らかにする。特に熱伝導率計測においては、3ω薄膜熱伝導率測定装置の誤差低減がかかせない。そのため、電気的ノイズの周波数成分を調査して、適宜フィルタを取り付ける。 以上の研究によって、低分子有機物薄膜の熱電性能を支配する要因がキャリア移動度であるかどうか解明する。さらに、熱電性能の高い低分子有機物薄膜で熱電変換デバイスを作製し、今年度ペンタセン薄膜とTTF-TCNQ薄膜で行ったようにデバイスの発電特性を評価する。
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