研究課題/領域番号 |
25390049
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
本多 善太郎 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (30332563)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 強磁性体 / 炭素材料 / フタロシアニン |
研究実績の概要 |
本年度はこれまでの研究成果を踏まえ、フタロシアニン重合体の構造と電子状態の解明及びフタロシアニンシート重合体の重合度の向上を目指し、以下2点の研究成果を得た。 (1)高塩素化鉄フタロシアニンとアルカリ金属のウルツ反応(フタロシアニン分子同士を結合させる化学反応)における強磁性炭素材料の構造制御を目的として反応温度、原料比の検討を行った。各反応生成物の構造をX線回折法、透過型電子顕微鏡観察により行ったところ、反応温度350℃以下で合成した試料はフタロシアニン構造を保持しているのに対し、400℃以上で合成を行った試料はフタロシアニン構造が壊れアモルファス炭素となることを明らかにした。さらにX線光電子分光法を用いて各試料中の鉄の価数を調査したところ、ウルツ反応に化学量論比以下のアルカリ金属を用いて合成した試料中の鉄は2価イオンであり、一方、過剰なアルカリ金属量で合成した試料中の鉄は金属状態であることが示された。以上の実験結果より、過剰なアルカリ金属を用い高塩素化鉄フタロシアニン高温重合すると金属鉄微粒子が分散したアモルファス炭素複合物質が生成し、化学量論比以下のアルカリ金属量、低温で合成した試料はフタロシアニン構造が保持され、鉄イオンが均一に分散したフタロシアニン重合体となっていると結論付けた。また、どちらの試料も室温で強磁性を示した。本研究成果はTrans. Mat. Res. Soc. Jpn.誌に投稿し、受理された。 (2)キャリアガスを用いてシアノベンゼンと銅箔を特定の条件下で反応させることにより高重合度の銅フタロシアニンシート重合体の合成に成功した。フタロシアニンシート重合体は古くから合成が行なわれているが、いずれも明瞭な回折線を示さない低重合体であるのに対し、本方法で得られた試料は鋭敏なX線による回折線を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究テーマでは金属を内包する強磁性炭素材料としてフタロシアニン重合体の創製を目指している。具体的には(1)ハロゲン化フタロシアニンのウルツ反応による強磁性炭素材料合成法の確立、構造及び物性解明、(2)シアノベンゼンと金属の反応によるフタロシアニンシート重合体の合成法の確立及びそれらの構造、物性解明を目指している。 本年度までの研究において(1)に関して各反応条件による反応生成物の同定をすすめ、反応条件と反応生成物の構造(特にフタロシアニン構造保持の有無)の関係を解明した。さらに、各種反応条件で得られた試料中の金属イオンの価数及び分散性(凝集しているか、均一分散しているか)を明らかにした。以上より、各種試料の構造、金属の電子状態と磁性の関係を解明しており、研究当初の目標をほぼ達成した。 (2)フタロシアニンシート重合体の合成に関しては従来法(シアノベンゼンと銅塩との反応)によって得られた試料は重合度が低い欠点があった。本年度は合成方法を根本から見直すことで重合度が高い銅フタロシアニンポリマーを得ることに成功した。得られた重合体は鋭敏なX線回折線を示すことから高い構造周期性を持つと考えられ、その構造解析、及び物性の評価が今後の課題である。一方、シアノベンゼンと鉄、マンガンとの反応生成物は中空カーボンオニオン構造の炭素と遷移金属窒化物の混合物であり、これらを中心金属としたフタロシアニンシート重合体を得ることはできなかった。銅以外の中心金属を含むフタロシアニンシート重合体の合成に関しては今後の検討が必要である。以上の点から本研究の進捗状況は良好であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究において新規方法(キャリアガスを用いたテトラシアノベンゼンと銅箔の反応)を試みたところ高重合度フタロシアニンシート重合体の合成に成功した。そこで今後、キャリアガスの種類、圧力、流量、反応温度等の反応条件の最適化を行い、安定して高重合度フタロシアニンシート重合体が得られる方法を確立する。既存の方法で合成されたフタロシアニンシート重合体は低重合度であり、構造の周期性が低いためX線回折法等による精密な構造解析が不可能であった。それに対し、本方法で得られたフタロシアニンシート重合体は構造の周期性が十分あるため、X線回折を用いた構造解析が可能であると予想される。そこで粉末X線回折法及びリートベルト法の組み合わせによる構造解析を試み、フタロシアニンシート構造の解明を目指す。 高塩素化フタロシアニンを原料としたウルツ反応においては、中心金属が鉄以外のフタロシアニンを原料として各種金属フタロシアニン重合体の合成を試みる。具体的には高塩素化コバルトフタロシアニン、及び高塩素化銅フタロシアニンを合成し、それらを原料に用いてコバルト、銅フタロシアニン重合体のウルツ反応における合成条件を検討し、合成法を確立する。各種金属フタロシアニン重合体の磁性を測定し、その構造と磁性の関係を解明する。以上により金属含有強磁性炭素材料としてフタロシアニン重合体の創製を目指す。
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