本年度は、様々な金属を炭素中にドープすることを目的に、各種遷移金属高塩素化フタロシアニンを合成し、それらとアルカリ金属の反応を調査した。まず、原料となる各種高塩素化フタロシアンの合成を試み、鉄、コバルト、ニッケル、銅錯体の合成に成功した。これらとアルカリ金属の反応の結果、鉄、コバルトフタロシアニンを原料とした金属ドープ炭素が強磁性を示した。一連の金属ドープ炭素の組成と構造を調べるためXPS測定を行ったところ、アルカリ金属は高塩素化フタロシアニンから塩素を引きぬいて炭素間結合を形成するだけでなく、フタロシアニン環外部の4個の窒素を引き抜く作用があることを明らかにした。またナノグラファイトに由来するX線回折が観測された。以上の結果より、金属ドープ炭素は窒素が平面4配位した金属が炭素中に均一に分散した構造であると推定した。また、カップリング反応に過剰量のアルカリ金属を用いた場合、窒素量の減少が原因で、金属原子の凝集が起こり、炭素中に金属粒子が分散した構造となることを明らかにした。 加えて、フタロシアニンシートポリマーの合成法の検討を引き続き行った。従来のテトラシアノベンゼン原料の代わりにオクタシアノフタロシアニンを主原料とした真空中固相反応によりシャープなX線回折線を示すフタロシアニンシートポリマーを得ることに成功した。また、XRDパターンからその構造を調べたところ、理論的に予想されたシート構造とよく一致することを示した。 本年度は以上の研究を行い、窒素が平面4配位した強磁性金属ドープ炭素及び高品質なフタロシアニンシートポリマーの新規合成法を確立し、さらにその構造、磁性を明らかにした。これらの材料は磁性と電気伝導性、触媒能を示すことから今後スピントロニクス材料や磁気分離触媒などへの研究の発展が期待される。
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