研究実績の概要 |
本年度は、InPベーススピントロ二クスデバイスを実現するために、プロトタイプとして、InP基板に格子整合する半導体薄膜であるAl0.48In0.52As, Ga0.47In0.53Asについて、ZnSnAs2薄膜とMn添加ZnSnAs2薄膜とのヘテロエピタキシャルを検討しInAlAs/ZnSnAs2:Mn構造の磁性量子井戸構造(MQW)の作製を試みた。 InP基板上に低温分子線エピタキシー法(MBE)によって成長したZnSnAs2緩衝層およびInAlAs層について、高分解能X線回折パターン(HR-XRD)によって結晶構造を調べた。このHR-XRDで現れたフリンジパターンはZnSnAs2薄膜に起因するもので、良好な結晶性と界面状態を示している。さらに、断面透過型電子顕微鏡(TEM)によってZnSnAs2/InP上に成長した260nm厚のInAlAs層について,電子ビームを<110>InP方向から入射した断面観察を行った。このTEM像からInAlAsはZnSnAs2緩衝層にエピタキシャル成長しているが、あわせて貫通転位も見られる。InP/ZnSnAs2ヘテロ界面近傍のTEM像から界面層は非常に急峻でありフラットネスも良好であることが確認できた。次に、InAlAs/ZnSnAs2/InAlAsQWとInAlAs/ZnSnAs2:Mn/InAlAsMQWのTEM像を調べた。InAlAs層は25nm、ZnSnAs2:Mn層のMn組成比は3%であり、InP基板側から4,6,9nmと膜厚を変えた。これらのTEM観察からMnAsなどの2次相は観測させず、良好なQWが実現されていることが確認できた。低温MBE成長でIII-V族半導体とII-IV-V2族半導体のヘテロエピタキシャル界面が良好に成長することを確認でき、ZnSnAs2:Mnからなる新たなエピタキシャル結晶工学技術の一端を構築できた。
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