研究課題/領域番号 |
25390055
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
古門 聡士 静岡大学, 工学部, 准教授 (50377719)
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研究分担者 |
角田 匡清 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80250702)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | スピン緩和 / スピン-原子振動相互作用 / スピン軌道相互作用 / 異方性磁気抵抗効果 / 摂動理論 |
研究実績の概要 |
本研究は励起スピンの緩和に関する理論的研究である.ここでの緩和はスピン-原子振動相互作用によって生じるとする.この相互作用ではスピン軌道(SO)相互作用を持つ3d軌道が重要な役割を果す.前年度はSO相互作用と結晶場を考慮に入れた3d軌道を解析的に求め,その3d軌道の磁化方向依存性を調べた.今年度は,前年度に開発した理論を用いて実材料のFe4Nの「1.3d軌道の磁化方向依存性」と「2.異方性磁気抵抗(AMR)比の温度依存性」を調べた.詳細は以下の通りである. 1.結晶場エネルギー,交換分裂エネルギー,SO相互作用から成る3d電子のハミルトニアンに摂動理論を適用することで波動関数を求めた.Fermi準位近傍の波動関数は,支配的成分のダウンスピン状態とわずかに混ざったアップスピン状態(混成軌道)からなり,その混成軌道の確率振幅はcos2φまたはsin2φを含むことを示した.ただし,φは磁化(xy面内)とx軸の間の相対角である. 2.3d軌道のφ依存性を調べるための代表的な現象はAMR効果である.その効果の効率“AMR比”はAMR(φ)=[(φでの抵抗率)-(φ=π/2での抵抗率)]/(φ=π/2での抵抗率)として定義される.このAMR(φ)はC0+C2cos2φ+C4cos4φ(ただしC0=C2-C4)として表され,昨年,係数C2, C4の一般式を解析的に求めた.今年度はこの一般式と1の3d軌道をもとに,Fe4Nの係数C2, C4を求めた.その結果,C2はdε軌道とdγ軌道の部分状態密度の差に比例し,C4はdε軌道内の部分状態密度の差に比例することがわかった.さらに,これらの係数を用いて,Fe4NのC2とC4の温度依存性の実験結果(温度低下とともに|C2|とC4が増大)を解析した.その結果,温度低下とともに正方歪みが増大するとき実験結果を再現できることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(2)おおむね順調に進展している. 1.スピン緩和に重要な働きをする“スピン軌道相互作用と結晶場エネルギーを持つ3d軌道”を解析的に求め,その磁化方向依存性について詳しく調べた. 2.3d軌道におけるスピン軌道相互作用の影響を調べるため,異方性磁気抵抗(AMR)効果に注目し,AMR効果の一般理論を構築した. 3.2の理論を用いて,Fe4NのAMR効果の実験結果(AMR比が低温で増大)を解析した.その結果,温度低下とともに正方歪みが増大するとき実験結果を再現できることが確認された.
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今後の研究の推進方策 |
1.スピン軌道相互作用と結晶場を考慮に入れた模型を用いてスピン-原子振動相互作用を求める. 2.我々が開発した異方性磁気抵抗効果の理論を用いて,ハーフメタリック強磁性体で観測されたAMR比とCPP-GMR比の間の正の相関を解析する.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度インドでの磁性材料の国際会議で招待講演を行う予定だったが、現地空港が洪水で飛行機が着陸できず講演をキャンセルすることになった。この講演では私が開発した異方性磁気抵抗(AMR)効果の理論について発表する予定だった。特に磁性材料分野では最近AMR測定が盛んに行われており、本講演は大変有意義な機会と考えられた。今年度は中国で同種会議が開かれることから、本会議でAMR理論と最新の計算結果について発表したいと考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度キャンセルとなった異方性磁気抵抗(AMR)効果の発表を2017年1月の国際会議(中国桂林市)の招待講演で行う予定である。本会議でAMR理論と最新の計算結果について報告したいと考えている。
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