研究実績の概要 |
本研究は、近接場顕微鏡技術を始めとする光学顕微分光技術とフェムト秒時間分解分光技術を組み合わせて、高い空間分解能を実現する過渡吸収イメージング分光装置の開発と、開発した装置の有機薄膜太陽電池等への応用を主な目的とする。これまで、励起光と検出光を独立に位置制御し、励起子やキャリアといった光励起種の時空間ダイナミクスを、高感度・高空間分解能・広時間領域で時間分解して追跡可能なフェムト秒過渡吸収イメージング分光装置の構築を目指して、その要素技術の構築・システム開発を行ってきた。昨年度までは、光学系配置の簡略化、レーザー本体の安定化、高性能AD変換器による雑音低下等の最適化によって、特に信号検出感度の観点で、既存装置の10倍以上の高感度化を達成し、世界最高レベルでの微弱な光誘起吸光度変化(5×10-5以下)の計測に成功した。この高感度性を活用して、ドナー・アクセプタ分子結合型ポリマーとフラーレン誘導体を構成成分とする有機薄膜太陽電池の光電変換過程の解析への適用を行った。その結果、従来装置では困難であった微弱光励起条件下でのフェムト秒過渡吸収計測を実現し、励起子寿命と励起子拡散係数の定量評価および電荷生成過程と太陽電池性能との相関の明確化に成功した。前者については、論文発表(Jpn. J. Appl. Phys. 53, 01AB11 (2014))及び招待講演(227th ECS Meeting (2015))を行っている。後者については、共同研究者による他の測定結果(ナノ秒過渡吸収測定, 時間分解マイクロ波伝導測定)と組み合わせ、現在論文投稿中である。また、今年度は、昨年度から発生していた実験温度環境に由来するフェムト秒パルスレーザー光源の不具合を解決し、開発装置の安定的な動作環境を確保して、実材料・デバイスへの応用展開を含めた装置のデモンストレーションを進めた。
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