本研究は高プロトン伝導性発現の条件を明らかにするために、リン酸塩ならびにリン酸塩複合化物におけるプロトン伝導機構を解明することを目的とする。最終年度においては、超プロトン伝導を示す系として無機固体酸を取り上げた。無機固体酸は1次相転移により超プロトン伝導相に相転移し、化合物の構成要素であるプロトンが可動イオンとなる点でリン酸塩複合化物など他の超プロトン伝導体と大きく異なっている。無機固体酸のうち、Cs2(HSO4)(H2PO4)は室温で超プロトン伝導相が過冷却相として存在することが知られているが、100Kでも超プロトン相が保持されることを見いだした。さらに、220K付近に新たな相転移が存在することを発見し、この相転移がプロトン運動の凍結であるとともに、このプロトン運動を引き起こす分子回転の凍結に関係したガラス転移であることを構造、熱、プロトン伝導、誘電率およびNMRの測定解析結果から示した。 前年度までは、本研究の主対象であるリン酸塩複合化物を取り扱ったが、高いプロトン伝導性を示す系に共通する特徴は、200K付近でのガラス転移的な熱異常の存在とVTF型と呼ばれるプロトン伝導度の温度依存性であった。リンのNMR線形の温度変化から、200K付近での熱異常はリン酸回転の凍結であり、これに伴ってプロトン伝導度が劇的に変化することを明らかにしている。 従って、中温度領域で高いプロトン伝導性を示す代表的な系である無機固体酸とリン酸塩複合化物は、一見、全く異なる伝導機構を有しているように考えられるが、リン酸の回転による水素結合の切断がプロトン運動を引き起こすという点において同一であり、統一的に理解することが可能であることを初めて示した。
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