スピン電子の注入において、最も重要なのは高いスピン偏極の電子を効率よく生成することである。我々は、新しいGaAs/GaAsP歪補償超格子構造を開発してきた。歪み補償超格子構造では、従来の歪み超格子に比べ、歪み蓄積が抑制され、層厚を増やすことができるので、高い量子効率が期待される。しかし、GaAs/GaAsP歪み補償超格子において、層厚(ペア数)を増やすと、スピン偏極度が低下することが確認された。これは励起されたスピン電子が拡散過程でスピン緩和していることを示す。そのメカニズムを解明するために、 ポンプ・プローブ時間分解測定法を用いて、GaAs/GaAsP歪み補償超格子のスピン緩和特性を調べた。 24ペアGaAs/GaAsP歪み補償超格子の室温でのスピン偏極度の時間変化において、スピン偏極度は時間によって指数関数的減衰を示し、求めたスピン緩和時間は104 psである。90ペアの超格子試料でも同程度の109 psのスピン緩和時間が得られた。励起されたスピン電子は、表面まで拡散し、真空中に取り出される。GaAs/GaAsP超格子の拡散係数は6 cm2/sで、拡散モデルL=√Dt(Lは拡散距離、Dは拡散係数、tは拡散時間)によって計算すると、100 nmの長さを拡散するのに16.7 psもかかる。超格子試料が厚くなると拡散時間が長くなり、スピン緩和の影響が大きくなることである。また、拡散モデルをベースに計算したところ、スピン注入デバイスに応用する場合、最適化の超格子の層厚は300nmであると結論付けた。
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