研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、六方晶バルク基板(GaN, SiC)や、大型鋳造Siの残留歪み定量イメージングを世界に先駆けて実現することにある。基板の高品質化には残留歪みの低減が不可欠だが、六方晶や大型基板では定量性と分布測定を両立できなかった。本研究では、ステッパー機構を備えた自己補償イメージング偏光計(SCIP)を新たに開発し、六方晶における自然複屈折と歪み誘起複屈折の分離、大型基板への対応、という2課題を解決する。本年度の主な研究成果は以下の通りである。1,自己補償イメージング偏光計(SCIP)の開発:既開発のイメージング型偏光計を改造し、自然複屈折の補償機能と、応力-複屈折曲線の測定機能を付加したSCIPを開発した。主要部の構成は以下の通り。(1) 応力印加クランプ:機構部品とアクチュエータを用いて、試料面内に任意の一軸圧縮/引張応力を印加できるクランプを製作した。(2) 楕円偏光補償光学系:直線偏光計に液晶チューナブルリターダを組み込んだ光学系に改造した。(3) 制御ソフトウェア:透過光画像の多重撮影、自然複屈折の補償、応力-複屈折曲線の収集、複屈折量変換の各機能をホストPC上に実装した。SCIPを用いて、リターダの補償量を変化させながら。GaN, SiC基板の複屈折分布の収集に成功した。2,自然複屈折と歪み誘起複屈折の分離手法の検討:SCIPで収集した複屈折分布データから、自然複屈折のみを補償し、歪み誘起複屈折のみを分離測定するアルゴリズムについて検討した。3,小型鋳造Si基板の残留歪みイメージング:既開発の走査型偏光計を用いて小型鋳造Si基板を多数評価し、低歪み成長条件の知見獲得に貢献すると共に、SCIPを用いた大型基板のステッパー測定に有用なノウハウを得た。
2: おおむね順調に進展している
本年度の主な研究成果は、1,自己補償イメージング偏光計(SCIP)の開発、2,自然複屈折と歪み誘起複屈折の分離手法の検討、3,小型鋳造Si基板の残留歪みイメージング、の3点であった。成果1は、研究目的に挙げた2課題の1つである「六方晶における自然複屈折と歪み誘起複屈折の分離」を実現する上で、仮説検証に不可欠な透過光強度プロファイルを収集する装置である。代替装置は世界中に存在しないので、SCIPの開発は、研究目的に挙げた2課題の解決には不可欠なステップである。成果2は、成果1によって本年度に初めて着手できた項目である。本年度は、自然複屈折と歪み誘起複屈折の分離手法の完全な確立や学会発表には至らなかったものの、有力な候補手法についてSCIPを用いた検証を進めている。成果3は、研究目的に挙げた2課題のもう1つである「大型基板への対応」を実現するための準備として前倒し実施したものである。以上の理由から、本研究は、おおむね順調に進展していると判断した。
今後の研究計画は、以下の2点に集約できる。1,大型試料への対応:大型鋳造Si基板などに対応するため、試料を保持したまま縦横に搬送できるステッパー機構をSCIPに付加する。視野単位での測定と搬送とを自動的に繰り返し、結果を合成するアルゴリズムを開発し、大型Si試料の測定を可能にする。2,バルクGaN 基板, SiC 基板の残留歪み定量イメージングの実現:SCIPを用いて、残留歪みの定量化に必要な、光弾性定数、屈折率を実測する。結晶の各面に沿って短冊状に切断された結晶を用いて、圧縮試験の要領で複屈折を測定し、応力-複屈折特性を得る。複数の測定点における傾きから光弾性定数を、SCIPの最適補償量から各軸に対する屈折率を、それぞれ求める。特に、計画1については、ステッパー機構の付加に先だって、小型試料の試験測定を先行させ、本年度の成果3の知見と組み合わせることによって、試行錯誤の回数を減らして早期に装置を立ち上げられるよう工夫する。計画2については、圧縮試験で期待通りのデータが得られない場合でも、自然複屈折と歪み誘起複屈折の分離を先行させるなどして、実験が滞らないよう工夫する。
次年度使用額が生じた主な理由は、大学院生への謝金支出件数と出張回数とが本年度当初の想定を下回ったことによる。SCIP開発に必要な研究補助謝金と、学会参加や研究協力者との打ち合わせ等に必要な出張とは確保できており、本年度の研究遂行には支障なかった。当該助成金は、翌年度分として請求した助成金と合わせて、SCIP改造の部品費、SCIPを用いた測定実験や改造補助、成果発表旅費、に支出する計画である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件)
Solid State Phenomena
巻: 205-206 ページ: 94~99
10.4028/www.scientific.net/SSP.205-206.94
巻: 205-206 ページ: 89~93
10.4028/www.scientific.net/SSP.205-206.89