本研究の全体的な構想は,半導体Si単結晶育成において,熱応力の影響を考慮した点欠陥挙動シミュレータを開発し,産業界における450mm直径の無欠陥Si単結晶の実現に貢献することである.第一原理計算法を用いて熱応力が点欠陥の形成エンタルピーに与える影響を定量的に求め,その結果をVoronkov理論に適用する手法に特徴がある. 平成25年度には等方性応力の効果について,さらに平成26年度には平面応力の効果について研究した結果,現実の固液界面近傍の熱応力成分である平面応力を仮定した場合,Voronkovの臨界v/G値の変動を精度よく再現できることを示した.また,無欠陥Si結晶を製造可能な育成条件を明示する成果を得た.さらに,ドーパントが点欠陥濃度に与える影響についても,そのモデル化に成功した. 最終年度である平成27年度は,この応力効果を組み込んだ結晶成長の数値シミュレータ開発に取り組んだ.平面応力が点欠陥のパラメータに与える影響を考慮してgrown-in欠陥分布をシミュレートした結果,OSFリング位置などの再現に成功した.この成果について,現在,学術論文を作成中である.さらに,CZ-Si結晶中に取り込まれる格子間酸素が点欠陥に与える効果についても計算し,点欠陥の形成エントロピーも考慮することで,原子空孔濃度の酸素濃度依存性を説明することにも成功した.Si結晶中の点欠陥挙動に関する理論計算について,米国電気化学会からReview論文を依頼され,3月に出版した.
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