研究課題/領域番号 |
25390075
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小倉 正平 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (10396905)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 水素 / スピン偏極 / 表面磁性 |
研究実績の概要 |
本研究ではスピン偏極水素原子ビームを利用してAg(111)上の物理吸着酸素分子層の表面磁気秩序を明らかにすることを目的とする.現有のスピン偏極水素原子ビームにスピン選別のためのシュテルン・ゲルラッハ(SG)磁石を作成して組み合わせ,可動の四重極質量分析器(QMS)によりスピン偏極率の測定を行う.さらに現有の超高真空装置と組み合わせ,Ag(111)表面に物理吸着した酸素分子層にスピン偏極水素原子ビームを入射し,散乱後のスピン偏極率の変化をSG磁石とQMSにより測定する.また現有の外部磁場印加装置を用いて,入射水素原子ビームのスピンの試料表面に対する方向を制御してスピン偏極率の変化を測定することにより,酸素分子のスピンの方向を解明する.得られた実験結果をもとに解析を行い,表面磁気秩序の解明を行う. 本年度は水素ビームの速度測定と散乱実験に必要な部品の作成を行った.ビームの高強度化のために導入したスキマーにより水素ビームの速度が変化し,六極磁石とSG磁石の位置変更が必要になる可能性があるため,多光子共鳴イオン化法により水素ビームの速度測定を行った.水素ビーム下流にレーザー用の窓を設置し,水素分子ビームに対して対向する方向からレーザーを照射し,レーザーの波長に対するイオン化強度スペクトルを測定したところ,真空槽全体に水素分子を満たした場合に比べてドップラー効果によりピーク位置の波長が約0.0012 nmシフトした.このシフト量から水素ビームの速度を約1800 m/sと見積もった.また散乱実験に必要な試料ホルダーや角度分解のためのアパチャーなどの真空部品を作成し,水素分子ビームで散乱の角度分布を測定できることを確かめた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
レーザーによる水素分子ビームの速度測定を行う実験を行ったため当初の計画とは遅れている.早急に水素原子ビームの速度を測定・SG磁石によるスピン偏極率の測定を行い,当初の予定に間に合わせたい.
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今後の研究の推進方策 |
レーザーにより水素原子ビームの速度を測定し,その速度をもとに六極磁石とSG磁石の最適な位置を計算し,SG磁石を設置してスピン偏極率の測定を行う.また六極磁石の直後にスピン偏極していないビーム成分を除去するビームストッパーを置き,スピン偏極率とビーム強度の変化を測定する.計算結果との比較をしながら,ビームの最適化を行う.ビームの収束位置に準備したAg(111)表面上の物理吸着酸素分子層にスピン偏極水素原子ビームを照射し,散乱後のスピン偏極率の変化を測定する.表面の磁場が均一な場合ではスピン反転は起こらず,不均一な磁場があればスピン反転が起こると考えられる.酸素分子のスピンの向きは吸着量が低い場合は表面垂直で,吸着量が高い場合は表面平行になることが予測されており,水素原子の表面に対するスピンの向きによりスピン偏極率の変化に違いがあると考えられるので,試料まわりに外部磁場を印加することにより水素原子のスピンの向きを制御し,その違いを調べる.また基板温度や吸着量により酸素分子の吸着構造が変わるので,それらを変化させた測定も行う.水素原子ビームの強度が低く散乱後のスピン偏極率の測定が困難な場合は,表面における水素分子生成率をQMSによって測定することによりスピン反転時間を求めることも試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた真空部品の発注が間に合わなかったため.
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度にその真空部品の購入に使用する.
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