本研究ではスピン偏極水素原子ビームを利用してAg(111)上の物理吸着酸素分子層の表面磁気秩序を明らかにすることを目的とした. 本年度は水素原子ビームの強度測定を行った.ビーム高強度化のためのスキマーの導入に伴いこれまでとは形状の異なる石英管を作成したため,水素分子の解離率がこれまでの値より減少した.そのため水素原子を効率よく測定できるクロスビームイオン源の四重極質量分析器(QMS)を導入し,水素分子・原子ビームの強度の見積もりを行った.水素分子ビーム入射時のQMSの信号と,真空槽中に水素分子を満たした場合のQMSの信号の差からビームのみの強度を調べ,水素分子の石英管入口の圧力に比例して単位時間あたり10の12~14乗個の水素分子入射数と見積もった.さらにマイクロ波の有無による質量数2のQMS信号の差から水素分子の解離率を0.13と見積もった.水素原子ビームの速度を測定するためのレーザーや光学系を準備したが,水素原子ビームの強度が低く,測定までには至らなかった.石英管の形状や冷却法が変わったため,マイクロ波の放電により石英管が高温となり,再結合率が上がったのが原因だと考えられる.一方で水素分子ビームに関しては散乱強度の角度分布を測定できる装置を作成し,単結晶の二酸化チタン表面において水素分子の散乱角度分布を測定できることを確認した. 研究期間全体としては水素分子ビームの高強度化,磁石やQMSの位置制御機構の作成,多光子共鳴イオン化法による水素分子ビームの速度測定,水素ビームの散乱角度分解測定などを行った.しかし水素原子ビームの高強度化がうまくいかず,目的としていたAg(111)上の物理吸着酸素分子層の表面磁気秩序の解明までには至らなかった.個々の部分については本研究によりほぼ完成したので今後水素原子ビームの高強度化ができれば本来の目的を達成できると考える.
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