本研究の目的は、ガス中反応を可視化する「ストロボ環境電子顕微鏡システム」を新規開発し、金ナノ粒子触媒の「ナノ反応場」を直視解析・特定することである。本年度は、これまでの成果をまとめながら、外部発表などに注力した。具体的な項目は以下の通りである。1)金ナノ触媒のナノ反応場可視化による反応サイトの特定。2)ガス液雰囲気下における結像シミュレータの改良 1)は、特異な触媒作用を示す金ナノ触媒の活性サイトを解明するため、新規な反応可視化法を独自に開発して得られた成果である。我々は、金ナノ粒子触媒が活性を示す多くの反応のうち、プロピレンの選択酸化に注目した。この反応で生成されるのがプロピレンオキサイドという物質で、工業的にも種々化成品の原料として使われるなど重要な材料である。この物質の蒸気圧は、室温で0.5気圧程度と比較的低い。このため、周囲の圧力をその程度の値にすることで、発生したプロピレンオキサイドが液体として触媒表面に留まるため、電子顕微鏡で観察することで可視化できるものと考えた。我々のグループの先行研究に於いて、大気圧までのガス雰囲気下で材料を直接観察出来る環境セル電子顕微鏡システムを作り上げており、上述のオリジナルのアイデアを実現することが出来た。観察の結果、金と担体(酸化チタン)との接合界面周囲にプロピレンオキサイドと考えられるコントラストが生じるのを捉えることに成功した。この結果から、反応サイトが界面周囲であることを明らかにすることができた。本研究成果で、受賞3件、プレス発表1件など外部から高い評価を得ることが出来た。 2)について、昨年度から進めている各種ガス液雰囲気下での電子顕微鏡像シミュレータ開発を鋭意進めた。特に、ガス液分子の運動の影響を取り入れ、かつ短時間で計算が実施できる新たなシミュレーション法を開発することに成功した。
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