本研究は、Pd超薄膜の強磁性発現機構の実験的検証を目指してPd(001)薄膜の「表面ナノ構造・局所状態密度・磁性」の関連を調べている。昨年度までに現有の試料成長室・STM観察室を備えた超高真空STM/MBE装置を用い、Au(001)表面上に高品質なPd(001)超薄膜(1-20ML)をエピタキシャル成長法によって作製し、表面ナノ構造・トンネルスペクトルの評価と室温・大気中での極カー効果の測定を行ったが、強磁性を示す実験的な証拠を得ることはできなかった。その理由として、不純物の影響や低温の測定を行っていない点などがあげられる。そこで本年度は、超高真空下でPd超薄膜の作成と磁気光学効果の測定を行い強磁性の実験的な検証を試みた。実験は東大物性研小森研究室で行った。具体的にはMgO基盤を用いてAu(001)表面までは大阪教育大で作成し、その後物性研のMBE装置にてArイオンエッチングと熱処理によってAu(001)清浄表面を確認後、膜厚の異なるPd超薄膜を作成した。光源にはHe-Neレーザーを用い、光弾性変調器を用いた円偏光変調法によって極・縦カー効果の両者を膜厚1~6MLまでを室温で、2.2 MLの試料については120Kの低温で行った。LEED観察の結果Au(001)清浄表面、およびPd薄膜はAu(001)上に良好にエピタキシャル成長していることを確認後、磁気光学効果による磁化測定を行った。室温測定の結果は大気中と同様に磁場に対する応答はなかったが、低温では微弱な印加磁場に対応する応答は得られた。しかしながら磁場強度が十分でないため、強磁性を示す明瞭な実験的な検証を得ることはできなかった
|