研究課題/領域番号 |
25390081
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
仙田 康浩 山口大学, 理工学研究科, 准教授 (50324067)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | プローブ顕微鏡 / 原子間力顕微鏡 / シミュレーション / 分子動力学法 / マルチスケール |
研究概要 |
原子一つ一つを観測・操作・制御するナノテクノロジーの時代において物質表面の原子像を観測する原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy, 以下,AFM)は必要不可欠な装置である。しかし、AFMで原子像が得られる仕組みについてはいまだに不明な部分が多く、原子レベルからその仕組みを解明することがのぞまれている。 本研究では新規シミュレーション手法を用いたAFMの数値シミュレーションにより、AFMの仕組みを原子レベルから明らかにする。特にAFMのプローブ振動が減衰する原因については未解明であり、新規シミュレーションによってその仕組みを明らかにすることに取り組んだ。 我々の提案する手法は原子レベルのシミュレーションとマクロスケールの計算モデルを結合する手法である。AFMのプローブと表面原子間の相互作用を分子動力学法による原子スケールの計算を行い、その相互作用の下でのプローブ振動を一次元ばねのマクロスケールな振動に置き換えた。この2つの計算モデルを我々の開発した手法で結合してAFMのマルチスケールな計算モデルを作成した。計算モデルを用いて、プローブ振動が減衰する原因について、1、プローブ―表面間の原子熱振動の摩擦による減衰、2、表面からのフォノン拡散によるエネルギー減衰、の2つの可能性を検討した。計算モデルを用いて減衰量を計算した結果、原子の熱振動による減衰量は、表面からのフォノン拡散によるエネルギー散逸量に比べて桁違いに小さかった。このことから、原子熱振動はプローブ振動の減衰にはほとんど寄与せず、プローブー表面間の相互作用を通して、プローブの振動エネルギーが試料表面にフォノンとして拡散し、プローブ振動が減衰することがわかった。 これらの研究成果を表面物性及びプローブ顕微鏡関連の国内外の学会で発表すると供に、関連の研究論文が表面関連の学術雑誌で近日中に掲載予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的はミクロスケールからマクロスケールを網羅する新規シミュレーション手法を用いてAFMのシミュレーションを行い、AFMによる表面観測で原子像が得られる原理を理解し、これまで解明されていないAFMのエネルギー散逸のしくみを明らかにすることであった。この目的を達成するために、本研究課題の初年度は、レナード・ジョーンズ(LJ)原子間力ポテンシャルを用いた簡易的な原子モデルを用いて長時間の大規模シミュレーションを行い、エネルギー減衰の原因をマルチスケールな視点から解明する計画であった。本年度までにLJポテンシャルを用いた粒子モデルを用いてAFMのマルチスケールモデルを作成実行した。マクロスケールな時間で振動するプローブに及ぼす表面原子の影響を考慮するために、プローブを模したバネの振動数をできるだけ低くした長時間におよぶシミュレーションを行った。バネの振動数が低いときは、原子熱振動はプローブ振動の減衰にはほとんど寄与しなかった。これらの計算から、プローブー表面間の相互作用を通し、プローブの振動エネルギーが試料にフォノンとして拡散して振動が減衰することがわかった。以上のことから、初年度の計画予定である、LJポテンシャルを用いた粒子モデルを用いたマルチスケールモデルでエネルギー減衰の原因を探るという目標は本年度までに達成していると判断される。したがって本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
新手法に基づくAFMシミュレーションはプローブー表面間原子の運動を直接扱うため、ピコ秒(10-12秒)の時間スケールで粒子の運動を追っている。一方、AFM観測におけるプローブの振動は数百kHz =ミリ秒~μ秒オーダーである。このAFMシミュレーションはプローブ振動と原子の運動を直接結合しており、原則的には粒子系のピコ秒の時間スケールでμ秒に及ぶ桁違いの計算を行う必要がある。本年度まで、現実のプローブ振動の時間スケールに近い環境をシミュレーションで実現するために、低振動数でのばね振動を用いて長時間におよぶシミュレーションを行った。今後は、これらの計算から減衰量の振動数依存性を調べ、現実のプローブ振動数まで外挿することにより、観測結果との定量的比較を含めた検討が期待できる。また、本年度の研究により、プローブの振動エネルギーの減衰は、プローブ振動に対するプローブー表面間距離のヒステリシスを伴って生じたことがわかった。実際のAFM観測においても試料表面の上下運動が伴ってエネルギー減衰が現れることがわかっている。大阪大学のAFMグループ(菅原康宏、森田清三ら)とも連携しながらシミュレーション研究を続けていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度中にシミュレーション結果と観測結果との比較を行い、表面関連の研究会に発表予定であったが、観測との定量的比較のために、シミュレーションの計算モデルの変更や他の理論計算との比較を行う必要が生じ、当初予定の研究発表計画の一部を変更した。 当該年度に実施予定であったシミュレーション結果と観測結果との定量的比較を行う。これらの研究成果を発表する研究会や学会にかかる経費に充てる。
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