研究課題/領域番号 |
25390082
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
碇 哲雄 宮崎大学, 工学部, 教授 (70113214)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カルコパイライト太陽電池 / 組成変調構造 / 光学物性 / 光熱変換分光法 |
研究概要 |
カルコパイライト型CuIn1-xGaxSe2(CIGS)太陽電池は、薄膜中の組成を意図的に変化させることでエネルギーギャップ(禁制帯幅)を膜厚方向に変化させ高い光電変換効率を実現している。そこで、更に高効率化を目指すには、膜厚方向のEgの変化を詳しく認識しておくことが不可欠であるが、まだ直接的にそれを測定する技術は見あたらない。これはデバイス構造を取ったときに、高効率化に不可欠な背面Mo電極により光が遮断され、光透過測定技術が使えないことによる。 そこで本研究では、組成依存性を持たせたCIGSを作製できる三段階逐次蒸着法を用いてMo/SLG上に膜を作成し試料を準備した。更に、表面にCdSまたはZnS膜をCBD法(化学液槽着膜法)を用いて作製し、これら表面膜の影響を調べた。25年度に実施した実験手法とその結果は、以下の通りである。 (1)PPTS法を用いて信号の周波数ならびに温度依存性を測定した。これまでのPPTS手法ではPZTを用いていたが、Mo電極のために信号を測定することが出来なかった。そこで、透明なLiNbO3膜を検出器として用いて測定を開始した。このLiNbO3膜には電極を付ける必要があり、また、表面の面方位によって測定する成分が、熱あるいは歪みを区別して検出できる。しかし今回は信号強度を大きくすることを第一目的としたため、双方の信号を同時に測定するようにした。 (2)PL法を用いて膜表面近傍の光学的性質を明らかにした。スペクトルに現れる大きなPLピークは試料中のドナーとアクセプター間の遷移による物と同時にCdSバッファー層との界面の電子状態にも依存しておることが分かった。更に低温実験を行うことでキャリアの禁制帯内準位、表面準位との再結合過程を調べることが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
組成依存性を持たせたCIGSを作製できる三段階逐次蒸着法を用いてMo/SLG上に膜を作成し、更に表面にCdSまたはZnSバッファー層を作製した。測定対象の資料についてはこれで準備が完了した。ただ、膜圧方向の組成を設計通りに作製することには未だ不十分な点があり、出来た試料の組成分析を行って濃度の変化を評価しておく必要がある。 光熱反感分光法(PPT)については、微弱な信号ではあるがスペクトルを測定することが出来た。その結果、CIGS試料においては表面が不安定であることが分かり作製後短時間での測定が必要だった。一方、CdSやZnSを表面に付けた試料では信号が安定し、バッファー層によってCIGSとの界面が改善されていることが分かった。更に、CdSとZnSを付けた資料では、スペクトルの立ち上がり、吸収端が異なることが分かった。その原因については現在考察中である。 フォトルミネセンス(PL)測定は低温での実験が不可欠である。スペクトルに現れる大きなPLピークは、励起光強度を増加させることでブルーシフトしていることから、この信号の成因がドナーとアクセプター間の遷移による発光信号である事が分かった。この信号強度依存性は理論的に予想されるものと良い一致を示し、モデルの妥当性を裏付けるものであった。ただ、それらの不純物がCIGS層にある準位なのか、バッファー層との界面の電子状態にも依存しているのかが明確にならなかった。
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今後の研究の推進方策 |
光熱変換分光法(PPT)については、信号が微弱であるため、入射光エネルギーに対する信号強度の依存性がこれまでよく知られたものと異なっていることが示唆された。特に、バンド間遷移によるものなのか、あるいは界面の不純物状態などが影響しているものなのかを区別する必要がある。このため、信号の測定感度を更にあげるため検出器の位置や光学系を変えて実験を試みる必要がある。さらに液体窒素を用いて温度依存性を測定し、スペクトル形状を考察する。 フォトルミネセンス(PL)測定はで得られた支配的な信号ピークがドナーとアクセプター間の遷移による発光信号である事が分かった。ただ、それらの不純物がCIGS層にある準位なのか、バッファー層との界面の電子状態にも依存しているのかが明確にならなかった。このため、低温実験を更に詳しく行うことはもとより、界面状態を変化させた試料を準備してその変化を調べる必要がある。同時に、基盤ガラスからのNaの浸みだしの影響も無視できないことが分かっており、この点についても考慮して実験を行う さらに、バンド間遷移を特徴付ける信号を測定するために変調反射分光法(Photoreflectance spectroscopy)を用いた実験を行う必要がある。ただし、この実験方法では試料表面からの情報が大きく寄与するために、バッファー層との界面からの信号なのかCIGS膜自身からの信号なのかの区別が難しい様に思われる。従って、励起光波長を変えるなどの工夫をして行く予定である。
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