研究課題
カルコパイライト型CuIn1-xGaxSe2(CIGS)太陽電池は、薄膜中の組成を意図的に変化させることでエネルギーギャップ(禁制帯幅)を膜厚方向に変化させ高い光電変換効率を実現しているため、膜厚方向のEgの変化を詳しく認識しておくことが不可欠である。平成26年度までに、CIGS薄膜試料のPPT(Piezoelectric photothermal)信号及びPL(Photoluminescence)信号の測定は終了しており、現在解析を行っている。特に、PLに関してはこれまで多くの報告があるにも関わらず、とくにPLピークエネルギーの温度依存性については統一的な解釈が出来ていない。それは、低温領域では温度上昇と共に減少し、中間温度領域で一度増加の傾向をみせたあと、高温領域では再度減少に転じる。この物性の知見はPPT信号から見積もることの出来るエネルギーギャプの温度依存性の解釈にも深く関与しており、更に詳しい解析が必要である。また、理論的側面からの解析についてはCIGSについて上記の理由から具体的なモデルをたてるところまでに至っていないため、計算がより簡易であると考えられる多層構造の太陽電池を用いて深さ方向のPPT信号を測定し、理論解析を行った。これは膜構造の深さ方向に異なった半導体が存在し、それぞれの半導体では組成に場所依存性が無くステップ関数の組み合わせとして考える事ができ、エネルギーギャップや熱伝導度が段階的に変化していることから、第一近似モデルとしては妥当であると考えた。
2: おおむね順調に進展している
組成依存性を持たせたCIGSを作製できる三段階逐次蒸着法を用いてMo/SLG上に膜を作成し、更に表面にCdSまたはZnSバッファー層を形成し、PPTについては極めて微弱な信号ではあるがスペクトルを測定することが出来た。その結果、CIGS試料においてはエネルギーギャップが低温領域では温度上昇と共に減少しており、それが予測される範囲に収まっていることが分かった。しかしながら、200K以上の高温領域では異常に大きな減少を示した。この実験結果はCIGS 膜が深さ方向に組成依存性を持っていると考えることからだけでは解釈が出来ず、新たなモデルの構築が必要であることが分かった。更にPLについては、上にも述べた異常な温度依存性(S型変化)を、PLスペクトルに現れるピークのエネルギーに対する形状、特にその非対称性を解析すれば良いことがわかった。
光熱変換分光法(PPT)については、得られたスペクトルから算出されるエネルギーギャップの異常な温度依存性を、PL実験結果の解析を進めると同時に実施し論文としその成果を投稿予定である。これまで報告されてきたPLスペクトルは、組成のばらつきや、膜内に多く存在する結晶粒界によって、詳しい解釈が困難とされてきた。しかしここで更にPPTの実験結果を考慮に入れた詳しい解析を行うことができる。更にこの様な議論の必要性を強調する事が出来る。また、熱とキャリアの拡散が共存するPPT信号発生機構の複雑なモデルを用いて解析を実施するにあたり、より基本的と思われる多層型太陽電池構造を使った計算モデルを立案し計算を行っており、まだ解決できていないこの計算結果と実験結果の不一致点を説明できるようにする。その後、膜方向に組成が変わった試料に対してのモデル計算を行い、実験値と比較する。最終年度であることから、これらの結果をまとめ、PPT実験手法の有用性を国際会議での発表や学術雑誌への投稿によって強調する。
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 9件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 1件)
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