研究課題/領域番号 |
25390106
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
島 隆之 独立行政法人産業技術総合研究所, 電子光技術研究部門, 主任研究員 (10371048)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 大容量光記録 / 超解像再生 / 多値記録 / 多層記録 / アーカイブ / 酸化物 |
研究概要 |
光ディスクを利用した情報アーカイブに関して、記録の多値多層化や超解像再生が共に可能な機能性材料(InSbOx, x<4)を用いた高密度大容量化を検討している。予め一定量の酸素を含むターゲットをAr雰囲気下でスパッタリングすることで成膜の再現性は向上する傾向にある。多層化と超解像再生を両立させるため、波長405 nm付近における光透過性が高くなるようInSb/O比を調整した結果、ラザフォード後方散乱分光法及び蛍光X線分析法で評価した組成比がIn:Sb:O=21:17:62 (at%)のとき、屈折率が約2.6、消衰係数が約0.5の薄膜が得られた。昇温時の二値化に係わる光学特性変化について、これまでのところInSbOx薄膜の組成比変化及び結晶性変化との関連性は認められていない。InSbOx薄膜(膜厚:20 nm)をZnS-SiO2薄膜で挟んだ3層構造(総膜厚:145 nm)では、600℃加熱時に総膜厚が5%増加する結果が得られており、光ディスク試料において凸の変形記録が成されている可能性がある。InSbOx薄膜を予め300℃まで加熱した後では、少なくとも波長500-800 nmの範囲において、室温と200℃の間で可逆的な光学特性変化があることを見出した。InSbOx薄膜による超解像再生は、その半導体的性質[1]に起因した昇温時のバンドギャップシフト効果[2]に由来する可能性が指摘され、今後レーザ光波長の405 nmにおける効果の有無を検証していく。InSbOx薄膜の記録/超解像再生機構が徐々にわかり始めた段階であり、今後その基礎物性をより詳細に明らかにするとともに、大容量化へのコンセプト構築に向けた取り組みを進める。[1] N. Kikuchi et al., Vacuum 65 (2002) 81, [2] M. Yamamoto et al., Jpn. J. Appl. Phys. 43 (2004) 4959.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、「薄膜作製プロセスに関する研究」と「短時間熱処理による物性変化に関する研究」の2テーマを計画していた。「薄膜作製プロセス」について、InSbターゲットをAr/O2雰囲気中で反応性スパッタリングにて成膜したときは、消衰係数kの値が導入する酸素ガス条件に強く依存することが一因となり、作製時期が少し異なると、酸素ガス導入条件の再調整が必要な状況にあった。予め酸素を含むターゲット(In:Sb:O=20:20:60 at%からInSbチップ添付で組成比微調整)をAr雰囲気中でスパッタリング成膜することで、成膜条件の簡素化及び環境の均質化が図られた結果、作製時期が異なる場合でもプリスパッタリングを経ることで、光学特性がほぼ同じ薄膜を再現性良く作製できるようになり、課題は解決した。「短時間熱処理」について、20℃/分の速度で600℃まで昇温したときに観測される二値化に係わる光学特性変化について、ラザフォード後方散乱分光法及びX線回折法により評価を行ったが、還元と結晶化はともに確認されなかった。現時点でこの二値化に係わる光学特性変化の起源は不明であり、この点で課題を残した。しかしながら、平成26-27年度に実施予定の「光学非線形性の起源に関する研究」のテーマにおいて、ZnS-SiO2との組み合わせ時に変形記録の可能性がある結果を得、またInSbOxの半導体的性質を反映したと考えられる超解像再生機構に関する知見を先んじて得たことは大きな成果である。総じて見れば、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、平成25年度に実施予定の「短時間熱処理による物性変化に関する研究」のうち、600℃昇温時に観測される二値化に係わる光学特性変化について、加熱前後の光学スペクトル変化を得るなどして、その起源を明らかにする取り組みを継続する。これに合わせて、InSbOx薄膜をZnS-SiO2や他の誘電体薄膜で挟んだときの光学特性変化も測定し、光ディスク記録特性との相関を評価することを含め、積層及び多値化の効果を検証する。可能であれば前倒しで、遅くとも平成27年度には、「光学非線形性の起源に関する研究」について、平成25年度までに得られたバンドギャップシフトに関する知見が波長405 nmにおいても成立するかを検証する。平成27年度は、「長時間熱処理後の基礎物性に関する研究」を中心に実施する。ナノ微結晶粒子の生成有無や電気伝導特性など、InSb不定比酸化物の基礎物性を評価する研究を進める。また本テーマは、InSbOx薄膜をアーカイブ記録に用いたときの加速試験としても位置づけられる。「応用に関する研究」について、InSbOx薄膜を使った多層記録/超解像再生については別に知見を得たため、多値記録を中心に両者との組み合わせを検討し、本研究のアウトプットとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
「短時間熱処理による物性変化に関する研究」の多値記録に関する研究テーマにおいて、その背景となる基礎物性を十分明らかにできなかったため、光ディスク試料にてこれを行う任意波形発生器の購入を当該年度は見送ったため。 多値記録に関する基礎物性について、大まかな指針を得た上で、任意波形発生器を購入する予定である。
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