研究課題/領域番号 |
25390108
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
牟田 浩司 岐阜大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10219850)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | シランプラズマ / 高次シラン / クラスタ / プラズマパラメータ / 大面積一様化 / 高速製膜 |
研究実績の概要 |
本研究は微結晶シリコン製膜プロセスの高速化・高品質化・大面積一様化を目指して、特にガス流れに注目し、プラズマや膜特性との関係を詳細に調べ、製膜プロセスの高度化を図ることを目的としている。昨年度までにガス流れとプラズマパラメータと膜質の関係を詳細に調べ、大面積でも膜質を維持する装置開発を行った。すなわち、プラズマ生成方式として、電源周波数がVHF帯のワイドレンジで大面積一様化が可能かつ低電子温度に有利なバラン給電、膜へのイオン衝撃を軽減するためリモートプラズマ型にし、ガス流れとしてプラズマ中のラジカルを拡散輸送支配、クラスタをガス流輸送支配となるように流量と排気速度を設定した。しかし、製膜速度を上げるために電力を増やすと高次シランが多量に発生し、特に正イオン化した高次シランイオンがプラズマから膜中へ混入して膜質を劣化させる問題点を見出した。そこで、本年度はその対策として、以下の内容を実施した。 (1)基板側の電極をマルチロッド型からマルチホローカソード型に変更した。ホローを通過する際に高次シランイオンが効率的に消滅するように、実験と理論解析を行いホローの孔径と深さを最適化した。 (2)ホロー内に生成するホローカソードプラズマを加熱プローブで詳細に測定し、プラズマの高密度低電子温度化を図った。 (1)により、正イオン化した高次シランイオンをホロー内で消滅させることで、基板に到達する高次シランを激減させることに成功した。その結果、膜質を大幅に改善することができた。さらに(2)における低電子温度化も、高次シランの発生原因となる短寿命種の抑制を通して、高次シランの減少に寄与したものと考えられる。しかしホロー効果によるプラズマの高密度化はわずかに留まり、ホロー内で消滅するイオン種による製膜速度の減少と合わせると、製膜速度の向上には至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
バラン給電によるプラズマの大面積一様化と新たに導入したマルチホローカソード電極による強力な正イオンクラスタの除去により、欠陥密度1016 cm-3台の膜を大面積に作製することができるようになった。これはクラスタの膜混入を抑制したことと、イオン衝撃を低減させたことが挙げられる。また、昨年までの方式では電力30 mW/cm2以上にするとシランプラズマ中に多量のクラスタが発生してプラズマが不安定になっていたが、本方式では電力を増加させてもプラズマが不安定になることはなかった。これは電力の大半がホローカソードプラズマ生成に使われ、電子温度は上がらず短寿命種生成が抑制されたと考えられる。しかし、投入電力を上げても、製膜速度はそれほど上がらなかった。すなわち、マルチホローカソード電極は、膜質の向上には大きな効果を示すが、製膜速度の向上にはつながらないことがわかった。製膜速度に関しては超音速流を用いることで大幅に改善できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では超音速流を作るのに、ラバールノズルを用いた不足膨張噴流を考えている。不足膨張噴流は特別な設備を要せず比較的容易に超音速流を作れるが、流れの中では流速・温度・密度などが激しく変化する。したがって本研究へ適用する場合、特にマッハディスク近傍の低温領域でクラスタの多量発生が懸念される。しかし、これまで開発したクラスタ除去対策により十分対応できると考えている。すなわち、プラズマによる負イオンクラスタの閉じ込め、ホローカソードによる正イオンクラスタの除去などである。なお、現実験設備では流せるシランガス流量に制約があり、大面積にわたって不足膨張噴流を発生させることは困難である。そこで、電極サイズを小型化したノズル電極を新たに製作することにした。これは電極のシャワーヘッドノズルの一部を抽出することに相当する。これにより超音速噴流下での高速製膜実験を行い、高品質膜を高速に作製する手法を確立する予定である。なお、本手法はガス設備があれば大面積化への拡張も容易である。
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次年度使用額が生じた理由 |
マルチホローカソード電極とマルチロッド電極を併用することで、高品質な膜を大面積に作製できることを示した。しかし、大面積ゆえマルチロッド電極に設けたシャワーヘッドノズル用の穴数は150以上に及び、各々から超音速流を発生させるには総計1000sccm以上のシランガス流量が必要であり、本研究室でのシランガス供給・廃棄システムでは対応できないことが判明した。したがって、穴数を制限した新たな電極を作る必要が生じ、その製作費を確保することにした。加えて、岐阜大学の任期満了に伴い次年度より研究機関を近畿大学に変更することになり、実験の一部を近畿大学で行えるように、実験室の整備にも予算を使用できるように計画を変更した。
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次年度使用額の使用計画 |
超音速流を発生させる他のノズル型電極を新たに製作する。これまでの予備実験や数値解析で設計は終えている。また、ガス流が高速化することでマルチホローカソード電極もホロー径やホロー深さなどの最適値が変わるため、新たに製作する必要がある。シランガスを使う実験は岐阜大で行うが、その他は近畿大学で行えるように、実験室の整備を行う必要がある。膜質の評価は岐阜大学生命科学分析センター所有の装置を用いる。具体的には、電子スピン共鳴装置(ESR), フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR),真空紫外分光光度計(UV), 顕微ラマン分光装置などであり、使用料を支払う。
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