研究課題/領域番号 |
25390110
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
林 信哉 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (40295019)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 酸素プラズマ / 植物成長促進メカニズム / 抗酸化活性 / チオール化合物 / 種子 / 遺伝子発現解析 |
研究実績の概要 |
酸素プラズマ中の活性酸素種を植物へ照射することで成長が促進する現象について,本年度から活性酸素照射による成長促進のメカニズムの探索を開始した. 活性酸素が照射され生体内で活性酸素が過剰になると,チオレドキシンやグルタチオンのチオール基がジスルフィド結合に酸化されることで余剰な活性酸素が消去され,同時にこれらが活性酸素のレセプターとなり生体反応を誘導する.本年度は,カイワレ大根種子およびシロイヌナズナ種子に低圧酸素プラズマを照射することで,種子内および種子から成長させたスプラウト内のチオール量および抗酸化活性を計測し,植物の活性酸素照射に対する反応を調べた.ガス圧力や照射時間を変化させて酸素プラズマを種子に照射し,その種子およびスプラウトからチオール化合物を試薬で定量した結果,(i)種子への活性酸素照射量と種子やスプラウト内のチオール化合物量とはほぼ比例する,(ii)成長促進効果が最大となるチオール化合物量があることが明らかとなった.従って,植物の成長促進を制御する因子の一つは植物内のチオール化合物であることが確認された. 活性酸素が種子殻を透過することの確認は,NADPH試薬を用いた方法を計画してところ,より確実な方法として種子殻を取り除いた種子への活性酸素照射を行った.その結果,通常の種子と種子殻を除去した種子とで酸素プラズマ照射による成長促進効果や抗酸化活性に顕著な差は無く,活性酸素は種子殻を透過していることが確認された. 活性酸素照射による抗酸化遺伝子および転写活性化の調査に関しては,シロイヌナズナのマイクロアレイを用いたGO解析により抗酸化遺伝子を含むすべての遺伝子の発現を網羅的に解析した.その結果,活性酸素の照射により数種類の転写因子が活性化していることが明らかとなった.また,活性酸素照射の結果,光合成やエネルギー産生に関する遺伝子が発現することも分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は,当初の計画に沿って,活性酸素照射→チオール化合物量変化→植物成長制御というルートを明らかにした.また,種子殻の活性酸素透過も確認した. 加えて,以下の点で本年度は計画以上の成果を挙げたと言える.活性酸素照射による抗酸化遺伝子および転写活性化の調査のために,シロイヌナズナのマイクロアレイ解析を行った.その際,遺伝子発現オントロジー解析を行うこととして,抗酸化遺伝子を含むすべての遺伝子の発現を網羅的に解析した.その結果,活性酸素照射により,光合成を触媒する酵素であるRubisCOが持つチオール基のレドックス反応を起点として,光合成関係ではプロトンポンプや光受容体(フィトクロム),エネルギー産生ではTCA回路,解糖系,それらの結果として細胞壁つまり植物の成長に関する遺伝子が発現することが明らかとなった.これは次年度(平成27年度)に計画している成長促進のパスウェイ解析に相当する内容である.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は,当初計画していた活性酸素照射から転写因子の活性化を経て抗酸化活性の向上および成長促進に至るルートの解明のうち,後半部分である抗酸化活性の向上から成長促進までの部分の解明については平成26年度までに実施したため,本年度は活性酸素による抗酸化遺伝子に関する転写因子の活性化の部分の詳細を明らかにする予定である.ターゲットとする転写因子は動植物に共通なKeap1-Nrf2系であり,Nrf2検出試薬および遺伝子オントロジー解析により活性酸素によるKeap1活性化の有無を明らかにする予定である. また,本年度は当初の計画より実験内容が減少したため,以下の研究を追加で行う予定である.活性酸素による成長促進効果は活性酸素を照射した種子のみに限られ,継代した種子では成長促進は観察されない.一方で,種子に活性酸素を照射した結果,種子から成長した植物にも長時間にわたって成長速度の増加などの成長促進効果が見られる.従って,活性酸素照射による影響がヒストン修飾などの形で遺伝子上に保存されている可能性がある.そこで,本年度後半は,活性酸素照射によるエピジェネティクスの可能性を調べる予定である.シロイヌナズナを用い,ヒストン修飾やDNAメチル化を検出する試薬を用いてエピジェネティクスの確認を行い,植物の遺伝子に与える影響を明らかにする予定である. 以上より,プラズマ中の活性酸素照射による植物の成長促進メカニズムが世界で初めて明らかにする.
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