研究課題/領域番号 |
25390113
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
矢久保 考介 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40200480)
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研究分担者 |
小布施 秀明 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50415121)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | フラクタル / 臨界現象 / 複雑ネットワーク / スモールワールド / 自己組織化 |
研究概要 |
本研究の目的は、マクロな古典系からナノスケール量子系、さらにはユークリッド距離が定義されない複雑ネットワークに至るまで、スケールや構成要素の異なる様々なフラクタル系の構造形成機構を統一的に理解し、さらにこれらの系の上でのダイナミクスと構造的特徴との関係を明らかにすることにより、機能的なフラクタル構造体のデザインに向けた基礎的知見を得ることである。25年度は、自己組織化臨界性(SOC)に基づく海岸線形成モデルを用い、海岸線のフラクタル次元の分布に関する基礎的知見を得た。複雑な形状を持つ海岸線がスケール不変性(すなわちフラクタル性)を有することは70年以上前から示されており、現在では多くの地域のリアス式海岸のフラクタル次元の値が実測されている。一方で、直線的な海岸が世界中に遍在することも周知の事実である。このような相違が生じるメカニズムを説明するため、Sapoval等 [Phys. Rev. Lett. 93, 098501 (2004)]によって提唱されたSOCモデルに基づき、フラクタル次元の分布関数を数値的に計算した。さらに、臨界系におけるフラクタル次元の揺らぎの一般論を構築するため、十分大きな有限系における臨界点近傍での秩序変数の分布が一般化Gumbel分布となることを基礎に、フラクタル次元の分布関数を理論的に求めた。その結果、フラクタル次元は3重指数関数のテールを有する分布関数によって記述されることが明らかとなった。また、次年度以降に行う複雑ネットワークのフラクタル性とスモールワールド性の統一的理解を目的としたSOCモデル構築に関する研究準備のため、スケールフリー性を有する複雑ネットワークの過負荷故障に対する頑強性に関する研究を行った。研究成果は、欧文誌に発表し、さらに国際会議や国内学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定では、古典的な自己相似形である海岸線形成機構の解明とフラクタル性獲得のメカニズムに関して理論的研究を行う予定であったが、この研究に加えて次年度以降に予定していた複雑ネットワークの臨界的な性質に関する研究を行うことができたことが主な理由である。従来の過負荷故障に対する頑強性の研究では、負荷の平均値が一定値を超えることによって故障が起こるとされてきたが、実際の過負荷故障は負荷揺らぎの最大値が基準値を超えることによって起こる一種の"extreme events"である。25年度における研究では、この負荷揺らぎをランダム・ウォークによってモデル化し、確率母関数を用いた解析的な計算を行うことで、ネットワークの大域的連結性が失われる臨界総負荷および臨界ノード削除率を求めた。その結果、スケールフリー性が強くなると、ネットワークは過負荷故障に対して脆弱になることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
ユークリッド距離が定義されないトポロジカルな意味での複雑系は、ネットワークという一般概念を用いることによって記述される。現実世界における大規模で複雑なネットワークは、ネットワーク距離の意味でフラクタル性を示すこともあれば、非フラクタル構造(スモールワールド構造)を持つこともある。スモールワールド性を有するネットワーク上の拡散はフラクタル複雑ネットワーク上の拡散よりも遥かに速いため、人間関係のネットワーク上での感染症の蔓延の速さや、インターネットのような機能性ネットワークにおける故障のカスケードの速さ(すなわちネットワークの頑強性)は、ネットワークがフラクタルであるか否かに強く依存することになる。しかしながら、どのようなメカニズムがネットワークのフラクタル性を発現させるかは、未だ明らかにされていない。今後の研究では、自己組織化臨界性(SOC)に基づいた複雑ネットワーク形成モデルを構築することにより、臨界点近傍における非平衡揺らぎが相反するフラクタル性とスモールワールド性をネットワークにもたらす可能性を示し、両構造を統一的に理解する。さらにネットワーク上の拡散現象やパーコレーション過程を調べることで、現実の複雑ネットワークを機能的フラクタル・ネットワークにするための条件を探る。
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次年度の研究費の使用計画 |
国際会議"Second Workshop on Complex Networks and their Applications"(京都・日本)に研究補助を行う学生を参加させ、本科学研究費補助金から依頼出張の費用を支出することを交付申請時点では予定していたが、当該学生が学内の国際会議旅費補助に申請し、これが採択されたため、予定の経費を支出する必要がなくなった。 次年度使用額については、平成27年3月に予定されている第70回日本物理学会年次大会(早稲田大学・日本)に研究補助を行う学生を参加させるための依頼出張費として使用する予定である。
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