研究課題/領域番号 |
25390113
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
矢久保 考介 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40200480)
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研究分担者 |
小布施 秀明 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50415121)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | フラクタル / 臨界現象 / 複雑ネットワーク / スモールワールド / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
本課題研究では、複雑ネットワークにおけるフラクタル性やスモールワールド性がどのような機構により発現するかを解明するため、自己組織化臨界性(SOC)を示すダイナミクスに基づいた複雑ネットワーク形成のモデルを提唱する。そのため平成26年度の研究では、過負荷故障故障のカスケードに対して複雑ネットワークがどの程度頑強であるかを理論的に調べた。26年度の研究で調べたモデルでは、負荷がネットワーク上をランダム・ウォークすると考え、各ノード上の負荷(ウォーカー数)の揺らぎが予め定められているノードの耐性を超えたときにこのノードで過負荷故障が起こるとしている。このように考えた際の過負荷故障確率は、正則化された不完全ベータ関数によって表される。この確率に従ってまず初期ネットワークからノードを削除し、さらにノード削除されたネットワーク上の負荷分布を再計算することで過負荷故障確率を更新し、その確率でノードを更に削除する。その際、現実の故障カスケードを考慮し、ネットワーク上の総負荷量がエッジ数の減少に合わせて低減されるものとした(低減の速さはパラメータrで特徴付けられる)。削除されるノードが無くなるまでこの操作を繰り返した後のネットワーク内の最大連結成分の大きさが初期ネットワークの大きさに比べて無視できるほど小さくなる最大の低減パラメータrcの値から過負荷故障カスケードに対する頑強性を評価した。その結果、従来の理論とは異なり、各ノードの結合数(次数)に大きな揺らぎがあるネットワーク(スケールフリー・ネットワーク)は過負荷故障カスケードに対して頑強であることが明らかになった。また、r=rc近傍におけるネットワーク構造の変化が臨界的性質を有することを示した。さらに、このような結果が負荷の揺らぎに起因するものであることを明らかにした。これらの結果は、欧文誌に発表し、さらに国際会議や国内学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、既存の脱退者モデルに負の次数相関を導入することで、SOCダイナミクスに基づいた複雑ネットワーク形成モデルを構築することを考えていたが、(i)負の隣接次数相関はスケールフリー性の強いネットワークにおいては有限サイズ効果としてのみ発現するため、無限に大きなネットワークに対しては負の次数相関を導入すること自体が不可能であることが判明したこと、および (ii)有限サイズの脱退者モデルに負の次数相関を導入しても、特徴的な大きさのコミュニティーが存在し続け、フラクタル構造にはならないことが明らかになったため、脱退者モデルを基礎としたSOCモデルの構築は困難であると判断した。そこで、現実の機能性ネットワークの多くが「成長」と過負荷による「損傷」の拮抗関係により自己組織化していくことを考慮し、過負荷故障のカスケードを伴ったSOCダイナミクスのモデル構築に研究の方向性を修正した。このようなモデルを実現するには、過負荷故障カスケードに対するネットワークの脆弱性やパーコレーション転移の普遍クラスを解明することが極めて重要である。現在までの研究により、負荷揺らぎを伴う過負荷故障のカスケードに対してスケールフリー・ネットワークが頑強であることや、転移の臨界性に関する系統的な知見が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究により、過負荷故障カスケードに対する複雑ネットワークの脆弱性に関する理論的な知見が得られたので、これを基に最終年度である27年度には、ネットワークの成長過程も取り入れたSOCモデルを構築し、それにより得られるネットワークの統計的性質を明らかにする。初期時刻において数ノードから成る小さな完全グラフを考え、各時刻において新規参入ノードを既存ネットワークにm本のエッジで結合させる。ネットワーク内の総負荷量(総ウォーカー数)は、ネットワーク内のエッジ総数に比例させ、新規ノードの耐性は、参入時の総負荷量とmにより決められる。このとき、ノード数の増加に伴って各ノードの過負荷故障確率は大きくなるので、或る程度ネットワークが大きくなると耐性の小さなノードは過負荷故障を起こすことになる。この故障がカスケードを引き起こし、ネットワークのサイズは小さくなるが、その時点から再び成長を始めるので、ネットワークは成長と崩壊を繰り返すようになる。このような過程が定常に至った後のダイナミクスについて詳細に調べる。大規模なカスケードはパーコレーション転移点近傍で起こるので、大規模崩壊直後のネットワークはフラクタル性を示し、その後の成長に伴って次第にスモールワールド性を発現するようになるものと考えられる。平成27年度には、このようなモデルによって実際にSOCダイナミクスが得られるか否かを明らかにし、ネットワークのフラクタル性とスモールワールド性の発現機構を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、国際会議"Complex Networks 2014"( マラケシュ・モロッコ)に参加し、過負荷故障カスケードに関する研究発表を行う予定であったが、エボラ・ウィルスなど西アフリカでの感染症流行の報道や、イスラム過激派によるテロなどの危険を考慮し、渡航を断念した。そのため、予定していた経費を支出する必要が無くなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額については、平成28年3月に予定されている第71回日本物理学会年次大会(東北学院大学・日本)に研究補助を行う学生を参加させるための依頼出張費として使用する予定である。
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