研究課題
基盤研究(C)
本研究は、表面局在の熱力学的温度を測定可能な、非接触かつ目盛り校正不要な温度計測技術、すなわち、固体中の電子エネルギー分布の光電子分光測定を原理とした温度計測技術の開発を目的とする。平成25年度では以下の2項目について研究を実施した。①新規電子エネルギー分析器の開発本研究で開発する電子エネルギー分析器は、出射スリットを設けず、エネルギーの違う電子を空間的に分散させ、イメージセンサーを用いて分散位置を強度測定する。開発のためのシミュレーション計算の結果では、高いエネルギー分解能を得るために、半球電極入射部及び出射部の空間電位を理想的な球状電極が作る空間電位に近づける必要である。これは、半球電極の入射部及び出射部に複数個の電極アレイを設け、内側半球電極から外側半球電極に連続的に変化する電位に対応させて電極アレイに電圧をかけることで実現可能できることがわかった。電極アレイの製作には新たな予算が必要なため、25年度では半球電極、磁場を遮蔽するμメタル、それらをマウントする超高真空容器からなる電子エネルギー分析器の基本構造を製作した。②光電子スペクトルから熱力学温度を決定する技術の改善フェルミ準位の光電子スペクトル形状は、熱力学温度とエネルギー分解能の2つの変数で決まる。これまでの研究では、他のセンサーで計測された温度を用い、エネルギー分解能を分散幅に持つガウス分布関数をフェルミ・ディラック分布関数に畳み込み積分した関数をフィッティングしてエネルギー分解能を決定し、その値を用いて別のスペクトルに対し熱力学温度Tを決定していた。しかし、この方法では、独立した熱力学温度計測技術を確立することはできない。また、エネルギー分解能は試料条件により変化する。25年度では、フィッティングにおける最小二乗法の変え、1つのスペクトルから熱力学温度とエネルギー分解能を同時決定する手法を開発した。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画では、多段階半球分散型エネルギー分析器を設計開発する予定であった。しかし、多段階型にすることに大きなメリットがないことがその後のシミュレーション計算がわかった。予算と照らし、1段階の半球型エネルギー分析器の開発に計画を変更した。研究目的の高いエネルギー分解能をもつ電子エネルギー分析器の実現可能性を実験的に証明することに対しては、十分な設計開発が進んでいる。また、独立した熱力学温度計測技術の開発として、光電子スペクトルから熱力学温度を決定する手法の開発にも進捗がある。この成果は国際学会TEMPMEKO2013で発表することができた。
平成26年度では以下の2項目についてさらに研究を進める。①電子エネルギー分析器の開発平成25年度で製作された電子エネルギー分析器の基本構造に対して、さらに静電レンズの設計開発およびイメージセンサーを用いた電子分散位置検出部の設計開発を行う。②フィッティングによる熱力学温度の決定法の改良平成25年度では、1つのスペクトルから熱力学温度とエネルギー分解能を同時決定する手法を開発した。しかし、開発された手法では、収束条件に大きな制限がある。計算科学を専門とする研究者から、フェルミ・ディラック分布関数に畳み込まれるガウス関数を2つにすることで収束がよくなるとの助言があり、それを用いて更なる改善を試みる予定である。
電子エネルギー分析器の基本構造の設計開発の予算として当初2,200,000円を計画したのに対し、2,100,000円で開発することができた。一方、海外出張として当初300,000円の予定していたが、375,003円を執行した。そのため、24,997円が残り、次年度に持ち越された。電子エネルギー分析器の開発において、静電レンズおよび電子分散位置検出部の開発が残されている。持ち越し金額は開発費用に加算する。
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