研究課題/領域番号 |
25390116
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
木下 郁雄 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 准教授 (60275021)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 熱力学温度計測 / フェルミ・ディラック分布 / 光電子分光 |
研究実績の概要 |
本研究は、表面局在の熱力学的温度を測定可能な、非接触かつ目盛り校正不要な温度計測技術、すなわち、固体中の電子エネルギー分布の光電子分光測定を原理とした温度計測技術の開発を目的とする。平成27年度は、液体ヘリウム温度領域と室温領域において、Au(110)単結晶表面でフェルミ準位近傍の光電子分光測定を行い、前年度に測定した液体窒素温度領域と併せ、3つの恒温領域における電子のエネルギー分布からの熱力学温度計測をおこなった。 熱力学温度を決定するためには、FD分布関数を単に光電子スペクトルにフィッティングするだけでは精確に熱力学温度Tを決定することはできない。測定の際のエネルギー分解能ΔEを偏差として持つ統計分布関数をFD分布関数に畳み込み積分した関数でフィッティングする必要がある。このΔEは試料表面の条件や試料温度に依存し測定ごとに異なる。そこで、他の温度センサから独立した熱力学温度計測技術を実現させるためには、1つの測定された光電子スペクトルから2つの変数TとΔEを同時決定させる必要がある。1つの光電子スペクトルは多数の測定点から構成されるため、原理的は1のスペクトルから2つの未知数を決定することは可能であるが、 TとΔEの変化に対するスペクトルの振る舞いは非常に似ており、そのフィッティングは簡単ではない。本年度の研究では、統計分布関数として、ガウス関数とローレンツ関数を比率γで線形結合させた関数を畳み込み積分することでフィッティングを可能にした。液体窒素温度領域で測定された光電子分光スペクトルに対し、試料ホルダー温度と一致する熱力学温度決定に成功し、さらにその測定精度の評価をおこなった。室温領域および液体ヘリウム冷却温度領域では、熱力学温度決定のフィッティングには成功したが、決定された温度と試料ホルダー温度にはまだまだ大きな差が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新規エネルギー分析器の開発が完了していない。内側および外側の半球電極、入射用静電レンズは既に開発済みである。静電レンズは昨年度までに設計済みであり、本年度までに開発が終了する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度中に新規電子エネルギー分析器を開発する。大きな特徴は、半球電極の入口および出口近傍にくし型の多電極が設置されている点である。完全球体を仮定したときの球中心からの距離に対する電極間の電位はラプラス方程式を解くことで電磁気学的に関数として求まる。12段のくし型多電極に球中心からの距離に応じて電圧をかけることで、完全球と同等の理想的な電位勾配を電極間につくることができる。この方式をとった半球型電子エネルギー分析器は既存しない。申請者は平成28年度~平成30年度の科学研究費補助金を獲得している。本半球型エネルギー分析器に、新たに電子位置検出計数測定ユニットを導入する。位置検出だけであるなら、蛍光板とイメージセンサーの組み合わせによる検出が可能であるが、その場合、蛍光強度を電子数に換算する必要がある。蛍光強度と電子数の関係は線形ではないため容易ではない。光電子スペクトルにFD分布関数をフィッティングして熱力学温度を決定する場合、そのスペクトルの縦軸強度となる電子計数の高精度測定が極めて重要になる。新しく導入するユニットは100 μm以下の空間分解能を持ち、かつ位置毎の電子の計数測定を可能とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
開発中の電子エネルギー分析器について、最終年度において静電レンズなどの部品の設計開発を予定していたが、完成している半球電極の入口および出口のくし型電極の設計位置が、製作業者の誤算で間違っていることがわかった。そのため、くし型電極位置の修正を先行させ、それに応じて静電レンズの設計も変更せざるを得なくなった。したがって、今年度中の納品が無理となり、補助事業期間を延長せざるを得ないと判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費(静電レンズ開発費)に300,000円、国際学会(Tempmeko2016)の旅費に295,144円を使用する予定である。
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