本研究は、表面局在の熱力学的温度を測定可能な、非接触かつ目盛り校正不要な温度計測技術、すなわち、固体中の電子エネルギー分布の光電子分光測定を原理とした温度計測技術の開発を目的とする。平成28年度は、新規電子エネルギー分析器の開発と熱力学温度決定のためのブロードニング関数の導出の研究を行った。 新規電子エネルギー分析器の開発では、半球電極部位を通過する電子の分散を位置検出して計数測定する。そのためには半球電極部位に入射する電子を静電レンズで収束させる必要がある。FD分布を構成する範囲のエネルギーの電子を等しく収束されるための色収差の小さい電子レンズ系を組む必要がある。計算機シミュレーションを行い、色収差を抑えた静電レンズの設計と製作を行った。 光電子スペクトルから熱力学温度を決定するためには、熱力学温度Tを変数としてもつFD分布関数にエネルギー分解能ΔEを偏差として持つ統計分布関数を畳み込んだ関数をスペクトルにフィッティングする必要がある。他の温度センサから独立した熱力学温度計測技術を実現させるためには、1つの光電子スペクトルから2つの変数TとΔEを同時決定させる必要がある。前年度では、液体窒素温度領域における光電子分光スペクトルに対し、試料ホルダー温度と一致する熱力学温度決定に成功したが、室温領域および液体ヘリウム冷却温度領域では、決定された温度と試料ホルダー温度には大きな差が見られた。温度決定精度の向上のためには、エネルギー分解能ΔEを偏差として持つ統計分布関を仮定するのではなく、より現実的なブロードニング関数を導出する必要がある。そこで、各温度領域での光電子スペクトルのフーリエ変換、熱力学温度Tを仮定したFD分布のフーリエ変換、それらの比を逆フーリエ変換することでブロードニング関数を導出する研究を始めた。温度領域でのブロードニング関数の違いを明らかにしていく。
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