研究課題
本研究ではカシミール斥力と呼ばれる量子電磁気力により,微小物体を浮揚させ,固着を防止すると共に摩擦を低減し,もって,計測システムの高機能化に貢献することを目的としている.カシミール力は真空のゼロ点エネルギーが変化することにより生じる力であり,重力と同様に人工的な外部エネルギーを必要としない.しかし,重力とは異なり,カシミール力は引力にも斥力にも成り得る.ただし,カシミール力は通常,引力であり,斥力を発生させるには誘電率に関して特別な条件を満たす必要がある.いま,物体Aと物体Bが媒体Cの中に存在しているとする.任意の周波数に対して,物体Aの誘電率が媒体Cより大きく,かつ媒体Cの誘電率が物体Bより大きい場合,物体Aと物体Bに作用するカシミールは斥力になる.カシミール斥力により浮揚する物体として,これまでメタマテリアルが候補となっていたが,本研究ではよりシンプルなカシミール斥力の発生方法を見出した.それは懸垂液滴を用いる方法である.通常,液体の誘電率は固体より小さく,さらに空気の誘電率は液体より小さい.従って,懸垂液体に捕獲された物体にはカシミール斥力が作用することなる.そこで,水滴中に捕獲された金粒子の運動を理論と実験から詳し解析し,カシミール斥力による気液界面からの浮揚距離やブラウン運動に及ぼす影響を明らかにした.工学応用として,懸垂液滴内に捕獲された単一金粒子の質量測定,および金粒子を二個捕獲することによるデバイ長推定など新しい計測技術を開発した.液滴内で使用できないマイクロメカニズムで,固着が問題となる系としてグラフェン共振器がある.そこで,グラフェンに作用するカシミール力についても研究を行った.
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