研究課題/領域番号 |
25390125
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤乗 幸子 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (50197844)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | パルスラジオリシス / 過渡吸収 / 過渡ラマン分光 / 電子線 / 過渡赤外分光 / 量子ビーム |
研究実績の概要 |
平成27年度は反応場制御量子ビーム誘起有機汚染物質分解への実用化のための、基礎的研究を進めた。溶液、薄膜中様々な環境下における有機汚染物質の量子ビーム誘起反応の初期的活性種の構造と反応性を明らかにすることを目的とした。 (1)パルスラジオリシスにおける紫外~近赤外領域での過渡吸収測定では、溶液中パルスラジオシスにおいて一昨年達成した2mm光路長シングルショットパルスラジオリシスシステムをさらに高度化し、1mm光路長シングルショットパルスラジオリシス過渡吸収測定に成功した。これにより紫外領域測定で課題とされていた基質の吸収によるプローブ光量の低下が改善され高濃度溶液においても320 nmからの高感度過渡吸収測定が可能となった。薄膜パルスラジオリシスにおいても膜厚200 μmからの過渡吸収測定が可能となった。 (2)有機汚染物質(チオアニソール誘導体)の水溶液中パルスラジオリシス過渡ラマン分光で観測された活性種チオアニソールモノマーラジカルカチオンの振動モードを、昨年購入した理論計算ソフトにより解析し、活性種の振動構造を帰属することができた。過渡吸収では解析できない活性種の振動構造の違いを明らかにすることができた。モノマーラジカルカチオンの二量化反応におけるモノマーラジカルカチオンの振動構造との関係を明らかにした。 (3)ラマン不活性な振動構造を明らかにするためにパルスラジオリシス過渡赤外吸収分光システムの立ち上げを開始した。レーザー過渡赤外吸収分光において、時間分解300 nsで、4000-800 cm-1の領域での測定が可能となった。ラジカル種、励起種の振動構造の測定に成功した。パルスラジオリシスシステムへの拡大を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
溶液、薄膜中パルスラジオリシス測定の高度化により、過渡吸収測定においては、量子ビーム誘起有機汚染物質分解のための基礎研究が順調に進んでいる。77 K から室温まで広い温度領域でのシングルショット測定が可能となり、照射試料へのダメージも大幅に抑制され、再現性の高いデータが得られている。溶液中パルスラジオリシス過渡ラマン分光においても、理論計算の導入により、有機汚染物質チオアニソール誘導体活性種の振動構造を明らかにすることができ、S原子やO原子が活性種におよぼす影響を明らかにすることができた。薄膜や様々なナノ反応場におけるパルスラジオリシス過渡ラマン分光も進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に従って研究を遂行した結果、着実に研究成果を得ることができた。量子ビーム誘起有機汚染物質分解のための基礎研究結果として学術雑誌に論文として発表する予定である。さらに各種材料中に有機汚染物質を包摂させ、ナノ空間包摂状態での量子ビーム誘起反応の活性中間体の構造と反応性を明らかにし、反応場制御量子ビーム誘起汚染物質の実用化をめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度より構築していたパルスラジオリシス過渡共鳴ラマン分光システムにおいて、シングルショット測定が確立できていないため、薄膜中での測定において、試料劣化が生じる、再現性に乏しいなどの課題が残されている。パルスラジオリシス過渡赤外分光システムが未完成である。ナノ空間反応場としての各種材料中包摂汚染物質の量子ビーム誘起分解効率の定量化がなされていない。
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次年度使用額の使用計画 |
薄膜パルスラジオリシス過渡ラマンシステムにおける高度化を進める。薄膜サンプルチェンジャーを設置する。さらに各種材料中に有機汚染物質を包摂させ、ナノ空間包摂状態での量子ビーム誘起反応をγ線照射により行い、その分解効率を定量化する。反応場制御量子ビーム誘起汚染物質の実用化をめざす。
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