量子ビーム誘起反応による分解の基礎過程を明らかにする目的で、有機汚染物質としてチオアニソール誘導体をモデル化合物とし、最終年度パルスラジオリシス過渡共鳴ラン分光法による量子ビーム誘起チオアニソール誘導体ラジカルカチオンの振動分光を行い、p-置換基による振動構造の違いを明らかにした。量子ビーム誘起チオアニソール誘導体ラジカルカチオンの過渡吸収スペクトルはいずれも同じ領域に吸収を有し、またラジカルカチオンの反応によって生成するダイマーラジカルカチオンの過渡吸収とも類似していることから、チオアニソール誘導体ラジカルカチオンの置換基効果を得ることはできていなかったが、チオアニソール誘導体ラジカルカチオンの振動構造を明らかにすることにより、セミキノイド型ラジカルカチオンとキノイド型ラジカルカチオンの2種の構造の存在とp-置換基の関係を明らかにすることができた。さらにセミキノイド型ラジカルカチオンでは効率的な二量化でダイマーラジカルカチオン生成が進行するのに対し、キノイド型ラジカルカチオンでは二量化が進行しなかった。チオアニソールのp-置換基がラジカルカチオンの構造と反応性に大きく影響することを明らかにした。新たな理論計算法の導入により高い精度で、チオアニソールラジカルカチオンの共鳴過渡ラマンシグナルの帰属をするこができた。空間制御型量子ビーム誘起反応による有機汚染物質の分解おける基礎過程を明らかにすることができた。また得られた結果は 量子ビーム照射による有機汚染物質の分解への発展のみならず、生体内での抗酸化過程において重要な役割を担っている硫黄化合物の酸化反応中間体の構造解明への発展が期待された。
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