1)人工酸化処理を行った毛髪試料のCa分布の蛍光X線マッピング:当初予定していたSPring-8での蛍光X線マッピング実験が、課題不採択によって実施できなかったため、光学系の変更によって蛍光X線の強度不足が予想され利用を控えていたPhoton Factoryの蛍光X線マッピング装置において、毛髪のCa分布がどの程度検出可能かを検討した。現在のビームライン4Aの光学系は、2結晶分光器とKBミラーシステムの組み合わせにより数ミクロンのマイクロビームを達成している。光学系の最適化が進められたためであろうか、メデュラ領域のCaを十分なS/Nを確保してマッピングすることができた。以前稼働していた多層膜分光器の光学系とほぼ遜色のない結果が得られ、今後継続的に成果が期待できる装置であることが判明した。具体的には外部人工酸化処理は、毛髪周辺部からCa蓄積を起こし、メデュラのCaは酸化にあまり依存しないことを確認できた。 2)乳がん患者の毛髪におけるCa含量:本研究の動機の一つは、乳がん患者毛髪でいわれている内的要因によるCa分布と、酸化など外的要因によるCa分布の違いを明らかにすることにある。予備的ではあるが、乳がん患者の毛髪において、Ca分布の特徴を調べた。健常人に比べてメデュラでのCa含量が多い傾向が見られ、またメデュラ内での不均一なCa分布が観察された。この結果はさらに測定数を増やして確認する必要がある。 3)まとめと課題:外的酸化ダメージによるCa蓄積について、密着型X線顕微鏡による化学マッピングの手法を用いて、内的にメデュラに蓄積するCaと蓄積部位が明らかに違うことが確認された。しかし、Caの化学状態の高分解能観察については、例えばCa-L吸収端での観察には、1ミクロン以下の試料の厚さが要求されることが判明し、スライサーと全く機構が異なるクライオミクロトームなどの必要性が認識された。
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