研究課題/領域番号 |
25390130
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
吉田 亨次 福岡大学, 理学部, 助教 (00309890)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | タンパク質 / 水和 / X線回折 / 中性子散乱 |
研究実績の概要 |
タンパク質水和水の構造とダイナミクスを調べるために水を吸着したタンパク質粉末についてX線回折ならびにX線非弾性散乱を測定した。両者とも測定温度範囲は298Kから180Kで、水の液液臨界点が位置していると思われる230K前後での変化に注目した。 (1)福岡大学既設のイメージングプレートX線回折装置を用いて、0から1までの水和率の範囲で、水和したリボヌクレアーゼ、不凍タンパク質粉末の回折を測定した。乾燥状態の試料の散乱も測定し、水和状態の試料の散乱から差し引くことにより水和水の動径分布関数を求めた。前年度に測定した牛血清アルブミン、ラクトグロブリンらの結果と合せてタンパク質水和水の構造の温度依存性について考察した。結晶構造解析による温度因子が小さいタンパク質では水和構造の温度依存性が小さく、一方、温度因子の大きなタンパク質では水和構造が温度により大きく変化した。タンパク質の構造の揺らぎやすさと水和構造の温度依存性の相関が確認された。 (2)SPring-8に設置されている高分解能X線非弾性散乱ビームラインBL35XUを用いて、不凍タンパク質、ポリペプチド(ポリリシン、ポリグリシン)のX線非弾性散乱測定を実施し、水和タンパク質の集団ダイナミクスを明らかにした。水和状態と乾燥状態ではタンパク質のダイナミクスに大きな変化が見られた。また、ポリペプチドの結果から、ペプチドの側鎖ならびに二次構造の違いにより水和水のダイナミクスが異なることが示された。不凍タンパク質では220K前後に集団ダイナミクスの動的転移が見られた。ポリグリシンなどポリペプチドではそのような傾向は見られず、タンパク質の機能との水和水のダイナミクスの間の相関が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
J-PARC MLF施設に設置されている全散乱分光器(NOVA)を用いてリゾチーム水和水の中性子回折による液体構造解析を実施する予定であったが、施設のトラブルのため、十分な測定時間の確保ができなかった。装置グループと相談の上、試料環境を改善し、今年度の再測定を計画している。
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今後の研究の推進方策 |
J-PARC MLF施設に設置されている全散乱分光器(NOVA)を用いてリゾチーム水和水の中性子回折による液体構造解析を実施する。室温から180Kまでの温度範囲でタンパク質の水和構造を明らかにする。NOVA分光器は軽水素を含んだ液体の中性子回折測定に最適に設計されている分光器である。同位体により中性子散乱長が異なり、試料を同位体置換することにより、特定の原子の周囲の構造を取り出すことが可能である。本研究では、重水ならびに軽水をタンパク質に水和させ、水和水分子とタンパク質の間の水素結合の情報を選択的に得る。水の液液臨界点が生じると予想されている温度前後での水和構造の変化を調べる。パルス中性子を利用した全散乱測定では、水素原子の非弾性散乱効果により、構造関数を求めるには補正が必要である。装置グループと協力し、水素を多量に含んだ系の測定法ならびに解析方法を確立する、 また、高圧下にある水は氷点以下でも氷形成は生じないため、過冷却条件下でも液体水の研究が可能である。ダイヤモンドアンビル装置を用い、ペプチド・タンパク質溶液を加圧し、高圧下での生体分子の水和構造や水の構造を室温から180Kまでの温度範囲で明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
J-PARC MLF施設にて、全散乱分光器(NOVA)を用いてリゾチーム水和水の中性子回折による液体構造解析を実施する予定であったが、施設のトラブルのため、十分な測定時間の確定ができなかった。また、新しく製作したクライオスタットのバックグラウンドを軽減することができなかったため、リゾチーム水和水の構造解析が完了しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
再測定のための試料調製ならびにセルの改良、および実験ならびに打ち合わせのための旅費に使用する計画である。
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