研究課題/領域番号 |
25390133
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
山内 宏樹 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究副主幹 (50367827)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 中性子散乱 / モノクロメーター / 八極子秩序 |
研究概要 |
物質の静的・動的な構造の研究に有効な中性子をより効率的かつ実用的に用いるための光学系改良策の一つとして、新しいモノクロメーターの開発を実施した。特に弾性散乱(回折)実験において、原子炉から出射される中性子束のうち最も強い領域(約1.4Å付近)を中心とした短波長中性子を連続的に有効活用するため、1/n波長(n:整数)が混入しないゲルマニウム単結晶に人工的にモザイクを導入する加熱下プレス(ホットプレス)作業の条件最適化を進めた。現在まで国内の研究炉JRR-3が再稼働しておらず、導入したモザイクの程度が評価出来ないため、韓国の研究用原子炉にてモザイク度を評価し、主に、(1)モノクロメーター結晶の寸法、(2)加熱温度、(3)加える圧力、(4)加圧時間の条件について精査した。ホットプレス作業は、そのノウハウと設備を備える東北大学金属材料研究所において行った。 モザイクの評価結果から、(1)モノクロメーターサイズに切削加工した結晶:幅100 mm × 高さ20 mm × 厚さ6mm、(2)温度:750℃、(3)圧力:36MPa、(4)加圧時間:30秒間加圧ののち直ちに圧力開放、の条件下において高分解能測定に適した最も高いピーク強度が得られるモザイク幅(約0.16°)の結晶になることが判った。一方、条件探索の過程でピーク強度は落ちるものの、積分強度としてはより大きいモザイク結晶が得られる条件があることが判った。高散乱強度用として、さらに大きなモザイク度(約0.4°)が得られる条件を探索した結果、加圧温度もしくは加える圧力を(2')800℃、もしくは、(3')50MPaに変更し、加圧後の処理方法を(4')30秒間加圧ののち650℃まで加圧維持、とすることで、目標に近い0.3°程度のモザイクの導入に成功し、散乱強度を重視するモザイク導入条件の絞り込みにも成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
完全結晶のゲルマニウムに対するモノクロメーター向けのモザイク導入については、当初の計画通り条件の最適化に成功するとともに、ほぼ作業の完了を達成している。一方、国内の研究用原子炉JRR-3の稼働が2011年3月の大震災以降停止したままで未だ再稼働の見通しも立っていないため、モノクロメーター結晶を試料に向けて集光する機器への結晶の取り付け調整作業や中性子導管内への導入テストが出来ず、開発したモノクロメーターの有効性を実証、評価するに至っていない。
|
今後の研究の推進方策 |
ゲルマニウムモノクロメーターについては、結晶のホットプレス条件の最適化がほぼ済んでいるので、最適条件の下、モノクロメーターに必要な結晶の枚数(9枚以上)に対するモザイク導入作業を逐次進める。また、モノクロメーター結晶を取り付け、試料位置に中性子を集光するための集光機構については設計・製作を完了し、制御端末から任意の位置への集光制御が可能になっている。今後JRR-3の再稼働が叶い次第、集光機構への結晶の取り付け、中性子を当てての結晶方位の調整、中性子導管内への導入および性能評価と有効性実証などの作業を順次推進する。 当初の計画では、今回開発したモノクロメーターを用いて短波長を利用し、NdB4の磁気形状因子の波数依存性を導出して八極子秩序の解明に結びつける予定であったが、研究用原子炉JRR-3の停止が今後長期に渡る可能性があるため、J-PARCのパルス中性子やSPring-8の共鳴X線散乱などの代替となり得る実験手段を用いた研究により、その秩序メカニズムの解明に繋げる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
モノクロメーター結晶として用いるゲルマニウムは、その原料調達のほとんどを外国に依存しているため、2013年頭以降の為替上昇および原料価格の急高騰に伴い、当初計画していた業者から必要枚数の結晶を購入出来なくなった。一方で、当機構内部の予算手当において予定外の購入資金が得られ、その予算を結晶の購入資金に充当する必要があったため、物品費に差額が生じた。 モノクロメーター結晶のホットプレス作業において、結晶を挟む清浄かつ平滑なアルミナ板は非常に重要な消耗品であり、今後も大量に必要になる。その購入に数十万円が必要なので、差額をその購入に充てる。また、ホットプレス作業の条件最適化の過程で破損し失われた結晶が数枚あり、完全結晶を補充する必要がある。さらに、中性子散乱実験に用いる実験試料の合成に用いる原材料費にも充てる予定である。
|