研究実績の概要 |
多段相転移(T1 = 4.8 K, T2 = 7.0 K, T3 = 17.2 K)を示す正方晶希土類化合物NdB4において、高次多極子秩序の可能性が議論されている。マクロ物性測定、粉末中性子回折、平均場近似計算などの結果に基づいた考察から、高温中間相(II相: T2 < T < T3)を磁気八極子モーメントの自発秩序相とするアイデアが提唱されている。この推察を検証するためにJ-PARCのBL18(SENJU)において単結晶中性子回折実験を行い、磁気形状因子の波数依存性を求めた。 波数Qの増加とともに磁気形状因子f(Q)が減衰する磁気双極子の秩序に対して、磁気八極子秩序の場合、それとは明らかに異なり、Qの増加とともに零から増大し、あるQ以上で飽和するような振る舞いを示すことが知られている。実験の結果、高温中間相(II相)において、禁制反射位置(H 0 L) (H = 奇数)の磁気反射が高Q領域に向かって増大する傾向があることを見出した。しかし同時に、多重散乱の存在も判明し、それが常磁性状態(I相: T > T3)から最低温度までの全ての測定温度域に渡ること、かつ、その影響が高Q領域にまで及ぶことも分かった。結果として、本測定では多重散乱と高Q領域の微弱な磁気散乱信号の明確な分離が困難であり、NdB4における八極子秩序発現の真偽に対する結論を得るに至らなかった。 一方、高温中間相より低温で出現する2つの未知秩序相内(III相: T1 < T < T2, IV相: T < T1)において磁気衛星反射を観測し、逆格子空間のスライスマップから、それぞれの相においてq1 = (δ, δ, 0.4) (δ ~ 0.14)のインコメンシュレート磁気秩序、q2 = (0.2, 0, 0.4)のコメンシュレート磁気秩序が実現していることを新たに見出した。
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